急転直下 1
何処へ行ったのか。
手掛かりはない。
張っていたあの人間は結局観光するだけの旅行者だった。
黛和斗は舌打ちすると
「あの女…どこへ行ったんだ」
と呟いた。
大阪の府庁の屋上で眼下の家々を見下ろしながら拳を作っていた。
今のAI政治システムを作ったのは一人の天才であった。
黒崎零里という男だ。
改新という小さな集団が国民全員を平等にしようとAI政治システムを作成したのだ。
それに表向き賛同した政治家や資産家が参加し組織として巨大化した。
自分の父親と母親もその一員となってその後のJDWという組織の立役者となった。
そのAI政治システムの中の特別となるためにである。
平等と言う平均化された世界の中のただ一つ頂点…そうなることが黛家の目的であった。
だが。
だが。
黛和斗は目を細めると
「黒崎零里と言う男は…そう思う人間が組織の中から多数出るだろうと考えていたということか」
と呟いた。
「ロボットを社会機構に組み込むことへの規制は解除できたが邪魔な存在を抹殺するという規制を外す前に逃げられるとは」
これではロボットだけの効率的に富を作成することができない
そう。
ロボットに欲はない。
ただ働いて自分に富をもたらすだけ。
そしてそれを利用して東日本も…いや日本を手中にする。
黛和斗は野獣のように目を光らせると
「その時こそ黛家の悲願を達成できる」
そのためには黒崎のあの女を手に入れなければ
と呟いた。
彼の目の前には大阪の街の明かりが輝き天上の星の光をかき消していた




