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はじまりの始まり 5

 清川肇は彼女と愁一を交互に見た。

 

 彼女は愁一を見ると

「そうよ、私が刺したのよ」

 と言い

「レベルを上げるために客先に頼んで商品を買ってもらって私が買い直していたことがばれたの」

 報告されたらペナルティが課せられるわ

「だからその前に」

 と告げた。

 

 愁一は顔を顰めて

「そんなことして……買い戻した分だけ貴女が大変になるだけじゃないのか?」

 と告げた。

 が、彼女はそれに泣きながら

「だって、営業の称号を選んだけど上手くいかなくて」

 でも称号を変更したら

「レベルは1に戻ってレベリングもペナルティがつくわ」

 生活ができなくなる

 と顔を伏せた。

 

 清川肇も息を吐き出して

「確かに俺も……同僚の浜田のように社交的じゃないから苦労はしてるけど」

 変更のペナルティや推奨以外の時のレベリング支援無しって言うのを考えたら

「勇気は出ないけど」

 部長を刺すのは

 と萬田君子を見た。

 

 彼女は号泣すると

「報告しないでくださいって頼んだの」

 でも不正は見過ごせないって

「そんなことし続けたら君が立ち行かなくなるって断られて」

 それでカッとなって

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 と床に突っ伏して泣き叫んだ。

 

 愁一は彼女の叫びを聞き

「お姉さんにはもう分っていると思うけど」

 雀さんは貴女のことを思って言ったんだよ

「それを続けたら商品はお姉さんの元に溜まるだけで生活費を上回る日が来る」

 だから

 と言い

「どんな事情があっても誰かを傷つけたり殺したりしたらダメだ」

 雀さんだけでなく貴女も幸せになれない

「貴女も不幸になる」

 と告げた。

 

 彼女は顔を上げて

「ごめんなさい」

 部長にも……謝罪します

「全部……システムに伝えます」

 と告げて、清川肇にそっと促されると立ち上がって白い雪の道を重々しい足跡を残して立ち去った。

 

 愁一はそれを見送り

「AIシステムにとって雀さんも萬田さんも清川さんも社会機構を動かす道具でしかない」

 きっと萬田さんは報告しても称号上のレベリング阻害ペナルティだけしか受けないだろう

「でも彼女はずっと苦しむことになる」

 自分を思ってくれた人を傷つけた罪とやり直しのできない称号のレベリングに

 と呟いた。

 

 確かに平等なAIシステムだ。

 

 だが。

 だが。

 ただ平等なだけで幸せを求めるために努力できる世の中ではない。


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