那須家の後継者 その7
そして、妻越ハルヒの名義で那須幸二の豪華な屋敷の近くにある一軒家を借りたのである。
そこへ引越しする予定日に二人は出雲から直接バイクで問題の村に向かったのである。
その方がAIシステムの監視が緩いとハルヒが提案したのである。
今回は探偵の称号の案件と言うよりは旧システムが検知した異常に対する内容だったからである。
それがAIシステムの認知することになると那須幸二の身が危ないとハルヒが判断したのだ。
二人は出雲から日本海側を北上し敦賀で内陸へと入った。
そこから岐阜を通り小牧の方から名古屋からは少し離れた猿投山の手前のちょうど瀬戸市と豊田市の戸越峠の辺りを目指した。
天橋立で一泊し、そこから、瀬戸市を縦断して、猿投山にある『猿投』という温泉に宿泊することにしたのである。
到着したのは正午であった。
猿投の温泉は宿屋が二か所程度の山奥の秘湯であったので食事処は宿屋の中にしかなかった。
ただ、そういう事情もあって宿屋の食事処は朝から開いていた。
颯希とハルヒはバイクを駐車場に停めると周囲を見回して息を吸い込んだ。
緑。
緑。
緑である。
特に新緑がまぶしい初夏だ。
迫るような山々の合間に猿投の温泉はある。
颯希はヘルメットを座席に入れながら
「それで、これからどうするの?」
と聞いた。
こんな偵察などしたことがないのだ。
ハルヒは尻を摩りながら
「あー、夜に行動する」
と告げた。
「だからできるだけ近い場所の宿泊施設を選んだんだ」
その村がどんな状況かもわからないし
「知られたいと思っているのか、思っていないのか分からないから」
最初は隠密行動だな
颯希は頷いた。
「わかった」
そう言って宿屋の方へと足を向けた。
「昼食やってくれてるの助かる」
ハルヒは笑顔で
「ああ、確かに」
と答えた。
二人は山間の秘湯の宿屋の中に入り昼食をゆっくりと取り、その後にチェックインをした。
鄙びた山奥の宿だ。
部屋の中も都会のホテルほど華美ではなかったが、颯希とハルヒがいた鷹取アパートほどボロッタでもなかった。
部屋は綺麗に掃除され8畳ほどの部屋の中に床の間もあって花が生けられていて風情があった。
ハルヒは案内した仲居ににっこり笑うと
「ねえ、ねえ、おねーさん」
ここ凄い山ばっかりだよねー
と告げた。
仲居の女性は笑顔で
「そうね」
でもそれが良いって言ってもらっているのよ
「ゆっくりお風呂に入って楽しんで頂戴ね」
と答えた。
見た目は12歳だ。
まだまだ子供である。
だが、颯希は沈黙を守って見つめた。
恐らく何かを仕掛けるつもりなのだろうことが分かったからである。




