那須家の後継者 その5
那須幸二は静かな笑みを浮かべると
「今の世界は確かにフラットだ」
全員三歳になれば適性検査を受けてギフテッド以外は
「学問と運動の称号を得てレベリングをしていく」
と告げた。
「親は関係ない」
親もまた三歳で子供を手放すともう子も関係ない
ハルヒは沈黙を守った。
那須幸二は息を吸い込み吐き出すと
「だが『ただそれだけだ』」
と告げた。
颯希は目を見開くと
「え?」
と息を飲み込んだ。
那須幸二は颯希を見つめ
「AIシステムは最後は手順書通りにしか動けない」
そして
「その手順書が間違っていればそれを修正できない」
と言い
「今のAIシステムの中に生命も心もない」
ただフラットに社会機構を回すという手順書しかない
と告げた。
「だから人に関する法律がない」
…人類史上における最悪のAI政治システムだ…
「それが100年以上も続いている」
人がもう人でなくなり始めているからだと俺は思っている
颯希は息を飲み込んだ。
那須幸二は拳を握りしめて
「人が殺されてもAIシステムは殺した相手を裁かない」
人が不正をしても社会が回っていくうえで支障がなければAIシステムはスルーだ
と告げた。
「俺は…友を目の前で殺された」
だがAIシステムが相手を裁くことはなかった
「友の死は処理されただけだった」
…そんな世の中はおかしい…
「殺し得の世界を俺は許せない」
颯希は息を飲み込んだ。
彼の中に冷静さの表面の奥にある熱い塊を見たからである。
恐らく凄く凄く大切な人だったのだろう。
だが颯希自身の中に考えればそういう存在はいなかった。
もし今誰か大切な人がいるか?
そう問われたならば…きっと、そう考えてハルヒを見た。
彼が殺されて、でも殺した相手が何もなく普通に生きていたら。
歪は感じていた。
4人を殺した名倉克美も殺したことに関してはスルーだった。
依頼者の坂田治人も部下である神田隆と三井和也の死に関して『代わりを見つける』と言うこと以外何も言わなかった。
いや、それだけじゃない。
田端修三もそうだ。
彼は自分がやりたいことができなかった。
そう、AIシステムの推奨する称号以外を望んだ場合は最悪野垂れ死ぬ覚悟を持たないとだめなのだ。
それが当たり前だと思っていた。
だが。
だが。
颯希はハルヒを見つめると
「ねえ、猫くん…10歳の猫くんだから…私、変なこと聞いているかもしれないけど」
今のAIシステムの前は人が死んだらどうだったの?
自分の進みたい道を進もうとした時はどうだったの?
と聞いた。
那須幸二もハルヒを見た。
那須幸二はハルヒのことを知っているのだ。
そして、多少だが現在のAIシステムの以前の旧システムについても知っている。
だからこそ聞きたかったのだ。




