はじまりの始まり 3
愁一は男性が血の滲む腰の辺りを抑えているのに
「気をしっかり持ってください」
緊急通報したので直ぐに助けがきます
と呼びかけた。
男性はそれに薄目を開けて
「君は……」
と呟いた。
愁一は彼に
「止血しているので動かさないで」
と告げ
「誰がこんなことを」
と呟いた。
そこにAIシステムから通報を受けて救急がやってきた。
同時に女性と男性が入ってきた。
「部長さん」
「部長!」
2人は同時にそう言って運ばれて行こうとする男性に駆け寄った。
男性は愁一の腕を掴むと
「きよし……いっしき……あがり」
と言い
「君……たぬき……」
と気を失った。
愁一は目を見開くと
「きよし……いっしき……あがり?」
俺がタヌキ?
と顔を顰めた。
意味が分からない。
ただ何かを伝えようとした。
愁一はそれを理解し
「事件の被害者が伝えることと言えば」
ダイイングメッセージ
と呟いた。
「そして、名前を直接言わずに遠回しに伝えたという事は」
犯人が近くにいるということだ
「けど、俺はタヌキじゃない」
彼は救急車に乗って病院へと運ばれていく男性を見送った男性と女性に近寄り
「あの」
お兄さんとお姉さん
「おじさんのこと知ってるの?」
と聞いた。
それに男性と女性は顔を見合わせた。
男性は頷き
「ああ、半蔵金物販商会の営業部の部長で俺たちの上司なんだが今日朝から出勤してこなくて彼女と見に来たんだ」
報告システムの入力日だから
と告げた。
女性もコクコクと頷きながら
「そうなの、報告してもらわないとレベリングできないから」
と告げた。
「でも……部長が怪我してしまったのなら」
他の部長に入れてもらうしかないわね
愁一は「そうなんだ」と言い
「あのおじさんの名前なんていうの?」
俺、家に帰る途中で前を通ったら血が見えて緊急通報したんだけど
と告げた。