疑惑 その5
二人が暮らすアパートの周辺にはビルもなければ家も疎らで歩いても依頼は殆ど得ることができない。
颯希は出雲市駅のホームに降り立ちビルや家々を眺めながら
「やっぱり探偵の依頼を探そうと思ったら」
都会だよね
と小声で呟いた。
瞬間にハルヒが前を歩きながら
「違うと思うけどね」
と答えた。
颯希は「聞こえてたんだ」と口に手を当てて噤んだ。
ハルヒは振り返ると
「事件は例え一人でも起きる」
確率で言えば確かに人が多い方が起きやすいけど
「今のところは…営業力だね」
と告げた。
「ネットによる呼びかけ」
解決したら依頼人に他にも困っている人がいないか聞く
「最後はやっぱり足だよな」
都会じゃなくても事件に当たる時は当たる
「都会でもあたらない時は当たらない」
颯希は心の中で
「まるで犬も…って変換して聞こえた」
と呟いた。
ハルヒは駅舎を出て立ち並ぶビルの中でも少し背の高いビルを指さし
「あそこ」
と告げた。
「出雲ハイトップビル」
色々な企業の事務所が入っている
颯希は頷いて足を進めた。
太陽はまだ南天から低く朝の様相が広がっている。
レストランでは開店直前の掃除。
列車から降りた人々はそれぞれの職場となるビルへと向かって入っていく。
颯希とハルヒもまた出雲ハイトップビルのエントランスに入ると受付の女性に声をかけた。
商社ビルらしく自動ドアを潜ると正面に案内をする女性がいる。
その左奥にエレベーターがある。
颯希は女性の前に立ち
「探偵の称号を持つ一色颯希です」
ビルのオーナーの今野牧夫さんはどちらに
と聞いた。




