はじまりの始まり 2
新潟の冬は寒くて長い。
鈴木愁一に成り代わって一か月近くが過ぎ去った。
新潟の雪は一度降り出すと一晩で50cmから多い時は1mを越えるほど降り積もり二階の窓から外を眺めると一面が真っ白であった。
愁一は窓を閉めてベッドから降り立つと
「お母さん、お母さん」
雪が玄関を塞ぎかけてる
と一階のリビングへと駆けおりた。
笑子はそれに笑いながら
「そりゃそうよ、だから雪かきしてから仕事へ行かないとね」
と告げた。
「愁一は家でゆっくりしていてね」
愁一は自らが目覚めた旧型システムから現在のAI政治システムへアクセスし様々な情報を収集した。
鈴木笑子。
彼女の年齢は42歳。
称号は学問レベルが28で中級接客レベルが30。
家から車に乗って30分ほどの場所にある半蔵金郵便局の受付をしている。
愁一は笑子と雪かきをして家の前に空間を作り車が出せるようにして、彼女を送り出した。その後、家を出て白い道路に足跡を付けながら湧水で有名な杜々の森に紛れるようにあるこんもりと綺麗な放物線を描く丘の中へと入っていった。
暫くして愁一は姿を見せると来た道を戻り、鈴本家へ帰宅の途についた。
それがここ暫くの愁一の日課となっていた。
鈴木家を訪ねる前に助けを求めた三軒の家も全て一人暮らしで、近くの自然公園の管理人や半蔵金区域で働いている人間だった。
現在は雪が深い為に自然公園は冬季休業をしており、管理人は家に引き籠っている。
ただそれぞれの称号レベルにあった生活は保障されているので食うに困ることがないようになっている。
愁一は「なるほどな」と呟きながら、一軒の家の前で足を止めると窓を見て目を細めた。
窓に血が付いていたのである。
愁一は携帯を手に緊急通報すると手袋をしたまま玄関を開けて中へと踏み込んだ。
左側に洗面所や風呂、トイレなどの水回りがあり右側が部屋になっている。
愁一が見た血の付いた窓は右側にあり、その部屋に入ると男性が倒れていた。
笑子のところへ行く前に訪ねて戸を閉めた人物だ。
だが、それはそれ。
これはこれである。




