名探偵の血 その2
翌日、妻越ハルヒはうろついていた警備ロボットがいなくなるとフラリとボロッタアパートのボロッタ部屋を出て、姿を消した。
一色颯希は彼がいると思って朝に一旦学校へ行ったものの昼前に帰ってきて、もぬけの殻となっていた部屋に目を見開いた。
「…いない」
出て行った?
「追われているのに??」
そう思わず呟いた。
が、彼は出て行ったわけではなく昼の2時頃にはふらりと戻ってきて
「ご飯」
と呟いた。
颯希はそれに
「…まるで、猫だ」
と思いつつ、パソコンを触りながら
「冷蔵庫に入れてる」
と答えた。
ハルヒは笑むと
「ありがとう」
と答え、冷蔵庫から取り出すと
「レンジ…ないんだ」
と呟いた。
颯希はクルリとハルヒを見て
「私、3年前に称号替えたばかりだから貧乏なの」
しかも推奨じゃないからレベリング支援ないし
「今もこうしてお仕事探し中よ」
と威嚇するようににっこり笑った。
ハルヒはそれに
「そうなんだ」
じゃあ、俺が手伝う
「世話になるお礼」
と言い
「一色颯希、ID番号は1000229」
学問レベル20
「元々の称号は上級経営」
今は探偵の称号レベル1…って三年前のままだよな
「年齢は17歳」
と答えた。
颯希は驚いてハルヒを見た。
ID番号やこれまでの経歴まで知っているなんて正に怪しすぎだろ案件である。
絶対に怪しい。
怪しすぎる。
だが。
今の彼女には調べる手段がないのが実情である。
いや、本来はAIシステムに介入するくらいの力がない限り知りえないのだ。
それを出来るということ自体がこの妻越ハルヒが普通でないという証拠なのだが。
颯希はムンッと息を吐き「絶対に正体見つけやる」と思いつつ
「お願いします」
と頭を下げた。
「ところで君は幾つ?」
10歳くらいに見えるけど
それにハルヒはさっぱり
「12歳」
と答えた。
「称号はプロデューサーにしておいた」
颯希は目を細めつつ
「しておいたって…本当にこの猫くん」
何者?
と思った。
もちろん、このハルヒという少年がそう簡単に口を割らない事も何となく感じていたのである。
こうして颯希とハルヒの奇妙な同居生活は本格的に始まったのである。
翌日、ハルヒは颯希が学校へ行くとふらりと部屋を出て姿を消した。
颯希の学校は島根県出雲市大社町鷺浦にある出雲高校鵜鷺分校であった。
分校とは名ばかりで校長も事務員もいない…いや、果ては教師すらいない颯希一人の分校と言う名の掘っ立て小屋であった。
出雲高校の教師によるモバイル授業が受けられるように電波中継基地だけは設置されていた。
それでも颯希が分校へ行くのはそこ以外ではモバイル授業が受けられないように設置されているからであった。
颯希は大きな原っぱの中に建つ10平米ほどのプレハブ小屋の中に入り、ポツンと置かれている机に座るとモバイルを立ち上げた。
「…自宅で受けられたら片道30分の往復1時間を無駄にしないで済むのに」
しかも一人だけなんだから協調性や社会性や共同生活を学ぶって感じじゃないよね
そう言って周囲を見回した。
ペッラペラの蹴ったら割れそうな壁とこれまた台風が来れば吹っ飛ぶようなカンカンと軽い音がしそうな簡易屋根が見えるだけであった。




