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19/30

第19話 今日から夏休みだけど

「今日から自由か」


 寿崎和弦(すざき/かいと)は、翌日の朝。

 ベッドから上体を起こしたと同時に、そのようなセリフが口から出てきた。


 毎日、学校に通わなくてもいいと思うと、気分的にもすっきりする。


 今日から一か月も、開放的な時間を堪能できるというものだ。


 刹那、足の部分に違和感を覚えた。

 布団の中身を確認してみると、足元にはスマホがあった。


 昨日寝落ちしてしまったのだろう。


「んッ」


 和弦は背伸びをし、ベッドから立ち上がると、清々しい気分で自室のカーテンを開けた。


「そろそろ、支度でもするかッ!」


 和弦はテンションを上げた。


 夏休み一日目からやるべき事が山ほどある。

 時間がある時に、色々とやっておいた方がいいと思い、気合を入れて、生活する事にしたのだ。


 和弦はパジャマのまま自宅一階の洗面所へと向かうのであった。




「おはよう!」


 朝食を済ませ、すべての仕度を終えた頃合いだった。

 自宅の玄関先に、私服姿の幼馴染の優木紬(ゆうき/つむぎ)がやって来たのは――


「おはよう、もう来たの?」

「そうだよ。だって、今から行く場所って隣街のプール施設でしょ? 昨日、メールで伝えたじゃない」

「え……そ、そうだったね」


 和弦は玄関先で昨日を振り返る。

 確かに、そういう話をしていたはずだ。


 昨日は疲れすぎて、少々寝落ちしていたところがあった。

 少々記憶が曖昧になっていたらしい。


「もう外に出られる?」

「俺は大丈夫だけど」

「そう? だったら、お金は持った?」

「あ、ちょっと待て……えっと、大丈夫みたい。ちゃんとあるよ」


 和弦は財布を確認した。

 千円札が六枚ほど入ってあった。

 隣街に行く程度なら問題ない金額だ。


「問題なさそうな感じってことでいい?」


 和弦は財布をポケットに。

 後はプールで着用する海パンを布の袋に詰め込み。それを手にすると、紬と共に家を後にする。




 地元の駅から電車で十五分ほど経っただろうか。

 その駅を降りて、さらに十五分歩いた先にプール施設があるのだ。


 元々地元にはプール施設があったのだが、今月中は設備の点検が長引いているようで営業していなかったらしい。

 そういう理由もあって、紬は別のプールを探してくれたのだ。その結果、このプールを訪れる事になったのである。


 プールの施設は比較的綺麗だった。

 結構な年数が経ってそうな建物ではあるが、普段から手入れされているのだろう。


「プールを利用する場合は、あっちの方に受付があるから」

「わかった、じゃ、行こうか」


 和弦は幼馴染と共に移動する。


 受付近くにはロビーのような休憩所があり、その近くには自動販売機も設置されてあった。

 基本は飲み物だけなのだが、よくよく見ると、サンドウィッチやハンバーガーや、簡単なスナック菓子系の食べ物も売られてあったのだ。


「へえ、色々あるんだな」


 和弦は幼馴染と共に受付場に佇み。そこから自販機を眺めていたのだが、近くから誰かの視線を感じた。


 ん?


 不自然さを感じて振り返ってみると、和弦の方へ手を振っている子がいた。

 それは、どこからどう見ても、後輩の渡辺六花だった。


「寿崎先輩も来たんですね!」

「え、な、なんでここに?」


 私服姿の六花は、ロビーのソファから立ち上がると元気よく近づいてくる。


「私も一緒に遊ぶことになっていたので」

「え、な、なぜ?」

「ごめんね。六花さんがね、秘密にしてほしいって言ってたからなの」

「そうだったのか⁉」


 紬から申し訳ない口調で、補足説明をして貰った。


「別に問題はないですよね?」

「ま、まあ、いいけど……でも、変な事はするなよ?」

「変な事って何ですか?」 


 六花は、和弦の近くでこっそりと話す。


「そ、それは、まあ、色々と」

「色々って言われても私、わからないですけど。寿崎先輩、言いたいことがあるなら、ちゃんと言わないとね」


 この頃、六花も本性を現してきた気がする。

 紬は六花の本性なんて事は知らないのだ。

 だからこそ、紬は六花とも遊ぶ約束を交わしたのだろう。




「和弦は、ロビーのソファで待ってて」

「いいのか、一人で」

「私は問題ないから」

「わ、わかったよ」


 和弦は六花と共にソファがある場所へ向かう。

 二人は隣同士に座った。

 すると、六花が近くに寄ってくる。


「そ、そんなに近くなくてもいいだろ」

「いいじゃないですか」

「というか、暑いから」

「でも、クーラー効いてますよ」


 そう言って、六花はさらに体を近づけてくる。

 制服とは違い、私服ゆえに新鮮さがあるのだ。


 六花の小柄な容姿に加え、爽やかな雰囲気に少し興奮を覚えてしまう。


 和弦は極力性的な感情を抑えた。


「そ、そうかもしれないけど」


 紬が数メートル先にいるのに、六花と馴れ馴れしく話をしていたら、この前の二の舞いになってしまうだろう。

 それだけは絶対に避けないといけないのだ。

 これ以上、変な事をしてしまったら、後先がないからである。


「えっとさ、一緒に来るなら、なんで駅で待ち合わせをしなかったんだ? もしかして、ここまで一人で?」


 気恥ずかしい空気感になる前に、和弦の方から疑問に感じていた事を聞いてみる事にした。


「違いますよ。私の家が、ここらへんなので、すぐ来れるんです」


 六花はロビーの窓から見える景色を向きながら、あっちの方と指さしていたのだ。


「そうなのか? だとしたら、普段から電車通学的な? 大変じゃないか? 朝の時間帯とか」

「でも、私、電車で学校に行くのも楽しいですから。私はあまり気にしてないですけどね」

「そ、そうか。ならいいんだけど」

「寿崎先輩、もしかして気にしてくれたんですか? 別に痴漢とかはされてませんからね」


 六花は隣に座りながら胸元を、和弦の右腕に近づけてきた。

 少しだけ、彼女の胸の大きさを感じられたが、頑張って感情を抑える事にしたのである。


「いいよ、そういうのは。そういう事を考えていたわけじゃないし」


 和弦は話が変な方向性に傾き始めていると思い、この話を強制的に中断させることにしたのである。




「手続きが終わったから。後、これ、鍵ね」

「あ、ありがと」


 着替え室にあるロッカー用の鍵らしい。


「後は、着替えてくるだけだから」

「わかった、じゃあ、行こうか」

「わかってると思うけど、着替える場所は別々だからね」

「わ、わかってるよ、そ、それくらい」


 紬は冗談で言ったのだろう。

 けれども、和弦からしたら気恥ずかしい。

 一瞬、紬が着替えているところ想像してしまい、赤面してしまうのだった。


「寿崎先輩、痴漢したいって」

「は? ち、違うからな」

「冗談ですから、そんなに怒らないでくださいね」


 六花からも、からかわれてしまった。


 もういっその事、覗いてやろうと思ったが、やっぱり、辞めた。


 こんなことで感情を表に出すのはよくないと思う。

 現実で危険を犯す事はないのだ。

 むしろ、そういうシチュエーションは漫画の世界で、すでに妄想済みなのである。


「じゃ、俺も後で、プールサイドに向かうから」

「そういう事で、じゃ、行こっか、六花さん」

「はい」


 三人は、ロビーから少し先を進んだ曲がり角で別れ。男性、女性、それぞれの更衣室へと移動するのだった。


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