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思い出して

作者: 汐見かわ

 手をひらひらとさせて、にこやかに歩み寄って来る人がいた。誰?


「久しぶり。成人式以来だよね。確か」


 成人式。地元の成人式には確かに一年ちょっと前に参加した。その時に会った地元の知り合いだろうか。そんなにたくさんの人とは会わなかったと思ったけれど。本当に誰かわからないが、知り合いだとしたら失礼な態度はとれないとその時思った。


「……元気だった?」

「まぁ、それなりに」


 違う違う。こんな会話じゃ誰なのか探れない。もっと頭を使うんだ私。

 地元が同じなら、高校まではきっと県内の高校だろう。田舎の学校は少ないし。


「ところで、大学ってどこに行ったんだっけ?」

「早稲田の政経だけど。言って無かったっけ?」


 早稲田か。高校は県内一の進学校のはずだ。私のそこそこの知り合いで地元の超進学校に行った男子は三人。一気に絞られた。いや、待てよ。その三人って成人式の日に会ったっけ。いたっけ。


「松島達は元気?」


 松島? え、私その子達とは別に仲良く無かったんだけど。グループ違う。この人、私の事誰かと間違えてるのかな。


「いや、知らないよ。松島さん達とはそんなに仲良く無かったから」

「え……」


 そら見た事か。この人も私の事を誰かと間違えてる。すごく微妙な空気が流れてるよ。何なのこの時間は。


「あれ? 成人式の時に会ったよね? 俺ら」

「うん……会ったと思う気がする」

「何それ意味わからん」


 この人も少しおかしいと気が付いたみたい。眉間に皺をほんの少し寄せて、微妙な悩める顔になった。

 よくよく見たらこの人そこそこのイケメンだなぁ。あ、違うな。雰囲気イケメンってやつだな。髪型だけそれっぽくて、顔はそうでもないな。体型が細いから、いろいろと誤魔化せてるみたい。まぁ、悪くはない。こんな時に相手を値踏みしてる私も何様だろう、相当失礼な女だと思うよ。自分で。

 目の前の知人らしき人は、視線を逸らしてどう会話を繋げたら良いか考えているみたい。

 そう、その調子で間違いに気が付いてくれると良いのだけれど。私は松島さん達のグループに所属していませんでした。人の悪口を言い合って成り立っているグループは苦手だから。

 そして、私は貴方が誰だか分かっていません。もう少しヒントが欲しいな。


「早稲田の政経って、確か松川君がいたよね」

「いや、いないし。松川ってとんでもなくアレだったじゃん。授業中に馬のマスク被ってクラスに入って来るヤツだよ。笑えた」

「あれね。先生も唖然としてたよね」


 共通の話題がある。つまり中学は一緒だ。でも、これじゃあ全然ヒントになってないや。相手にかまをかける自分の能力の無さに驚いちゃう。名探偵には絶対になれそうにない。地元民っぽいのは最初から分かりきってるじゃないか。


 知人らしき人は、何かを断ち切るように顔を上げて言った。


「……えっと、山波だよね?」


 ぶぶー。違います。人違いでした。良かったぁ、この人失礼な人だった。なら、私も間違えても大丈夫だよね。


「佐藤君、酷いなぁ」

「俺、佐藤じゃないし。木下だし。酷くない?」

「私も山波じゃありません。藤田でした」


 すっきりした。木下君の方か。何だかあまりよく覚えてないけれど、今、顔と名前が一致したよ。失礼な木下君。


「何か、ごめんな。勘違いしてた」

「良いよ。私も人違いしたし。お互い様だよ」

「そうだな。俺達最低だな」

「そうだね。人としてちょっとダメだよね」


 お互いにお互いを認識してないって少し笑える。中学の頃はお互いに別の事に意識が向いていたんだね。その程度の関係性。


 木下君。すっごくすっごく勉強の出来る子だった。大人しくて眼鏡でひょろくて。中学の時の印象はそれくらい。酷いあだ名をつけられていた気がするけれど、どんなだったかは忘れた。

 目の前にいる木下君は大学に行ってから少し垢抜けたみたい。コンタクトにしたんだね。そうだよね。早稲田の政経だもんね。毎日充実してて楽しいんだろうな。


「とにかくごめんな」


 二回目の謝罪。私も謝らないといけないのは同じなのに。きっと木下君は良い人だ。


「でも、お互いに顔と名前は一致したし。久しぶりに地元のヤツとこんな会い方して、絶対に忘れられないよなぁ」


 絶対に忘れられない、だって。早稲田に行くとそんな小説の中みたいな台詞が自然と出てくるのかな。何かむかつく。私の知ってる木下君はそんなんじゃない。そうだ、確かあだ名はもやし眼鏡。もやしで眼鏡のくせに。


 ……でも、もやしって必ずスーパーに置いてあるよね。大豆で、畑の肉。白くてひょろいけど、ああ見えてけっこう栄養あるんだよ。




2021年6月作成。

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