チート 2
読んでいただきありがとうございます。
マーガレットが厨房に行くと、シェフ達が大きな氷を一生懸命運んでいる所だった。
この世界は冷蔵庫はなく、物を冷やすには冷室に魔術師が一ヶ月に一度氷の結界を張り、そこに大きな氷を入れてやっと冷やす事が出来るという、ひどく手間とお金のかかる方法が一般的だった。宮廷魔術師団から派遣をしてもらい食品の鮮度をなんとか保っていたのだ。
氷は山奥の湧き水を寒い冬に凍らせた物を切り出して運ばせていた。
その光景を見てマーガレットは前世の冷蔵庫を思い浮かべた。何とかそれに近いものを作ることができたら、もっと簡単に食品を保存できる。確か金属の物が作られる前は木で作られていて中に氷を入れて冷やしていたと何かの本で読んだ気がするのだ。
あれが作れたら皆の為になるのではないかと思ったマーガレットは父のところに行くことにした。
「お父様お話があります、聞いていただいても宜しいですか?」
「その顔は何か思いついたのかな?」
「冷蔵庫という物が作れないかと思ったのです。氷も作れたら言う事がないのですけど」
「厨房にある氷室のような物かい?」
「そうですわ、箱の中に冷気を貯めて氷を入れ冷気を循環させて食品の鮮度を保つ、そんな箱が作れたら、いずれは庶民の暮らしに役立つようになるのではないかしらと考えたのですが、どう思われますか?」
「マーガレットは本当に七歳なのか?我が娘ながら恐ろしい気がするよ。とても素晴らしい考えだと思う。お父様が実現するから任せて欲しい。だがこの事は我が家の秘密だ。漏れるとマーガレットが狙われるからね」
「じゃあ作っていただけるのですね、楽しみですお父様」
それから一年後冷蔵庫らしき物が侯爵家でお披露目された。そこには二メートルの高さで奥行きが一メートルの箱が鎮座していた。
「やっと形になって来たよ、この木の箱の中に特別な石を貼り付けて冷気を逃げないようにしているのだ。中を二つに仕切って上に氷を置く。そこから冷気が箱の中を巡るというわけだ。実験をしてみたけどかなりいい結果になった。中の肉が傷まなかった」
「素晴らしいですわ、お父様」
「後はこの箱に色を塗ったり模様を彫って入れたりすれば見た目が綺麗になる。我が家の厨房に置けると思う」
「父上、素晴らしいです。これで庶民も冷蔵庫が使えるようになるのですね」
兄のエデイが嬉しそうに言った。
「それまでにはまだまだ年月はかかると思うが根気よく広めたいと思っている」
「我が家の厨房で試験的に使って、完璧になったら王室に献上するのはいかがでしょう。病院には絶対必要ですわね。熱のある患者に使えるのではないでしょうか?
ウインザー伯爵家にも差し上げたいと思うのですけどいかでしょう」
と母が言った。
「王室は宮廷魔術師団の管轄だからどうなるかわからないが、病院は必要だろう。そちらを優先的に考えよう。ウインザー家はこちらでは勝手に判断出来ないので伯爵と相談してみるよ」
冷蔵庫一号は厨房で大活躍をすることになった。傷みやすい肉や魚を主に入れた。野菜は今まで通り氷室だ。侯爵家は大人数なのでこうした使い分けが喜ばれた。
冷蔵庫が出来てから三年の月日が経ち大きさも様々な物が作られるようになっていた。
王室への献上品は陛下がとてもお喜びになったそうで、報奨として公爵位を賜るという話をいただいたそうだが、父はこれ以上忙しくなるのはかなわないと、お断りしたそうだ。お父様らしいと思う。
相変わらずルドルフとの交流は続いている。出会いの時から四年、マーガレットは十一歳の美少女になり、ルドルフは九歳の可愛らしい美少年になっていた。
お茶会にいそいそやって来るのは、マーガレットのお菓子が美味しいので楽しみにしているらしい。いつまでも仲良くしたいマーガレットだ。
「こんにちは、マーガレット今日のお土産は髪飾りだよ。この前屋敷に宝石商が来た時に僕も見せてもらったんだよ」
「まあ、素敵ね、ルドが選んでくれたの?」
細かい金の細工の土台に黒曜石が花の形に組み込まれている美しい髪飾りだった。九歳にしてこのセンス、末恐ろしくないだろうか。
「ひと目見てマーガレットに似合うと思ったんだよ。気に入った?」
「ルドが選んでくれたのに気に入らないわけがないわ」
「着けてあげたいんだけど、どうかな?髪に触っていい?」
「もちろんよ」
ルドルフの大人になりきれていない手がマーガレットの金色の髪を梳き、纏めてから髪飾りを着けたた。羽が触るような軽いその手つきにマーガレットはふっと力が抜けた。
とても気持ちが良かったのだ。小さな子が触るのってこんなに気持ちが良いものなのかしら。ほんわかとした気持ちを引き締め、マーガレットは侍女に手鏡を持ってこさせた。
流れるような金髪に髪飾りがよく似合っていた。それからルドルフはマーガレットに髪飾りをよく贈ってくれるようになった。
ヒロインが現れ二人が結ばれたら、この髪飾りは幼馴染の思い出として仕舞っておくことにしよう。まだまだ先のことなのに胸が苦しくなった。
ルドルフはマーガレットの髪を梳いたときの触り心地の良さにうっとりした。
滑らかでいつまでも触っていたい。この綺麗な髪に似合う飾りは自分が用意しようと思った。他のアクセサリーはまだ受け取って貰えないかもしれない、それでも徐々に贈り物しよう。目の前の美しい人を自分色のアクセサリーで飾りたい。
弟としてしか認識されていないのはよくわかっているので、少しずつ攻めるつもりのルドルフだった。
冷蔵庫につきましては、あまり詳しくはありません。なんとなくで書いておりますのでご理解ください。
誤字脱字報告ありがとうございます。大変助かっています。
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