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第一話 昔と今

 これは私が封魔一族に拾われる前のお話。


 ドシャ降りになる前にお風呂場を暖めたかった私は外の竈門で焚き火をしていた。全ては汗水垂らして頑張っているお父さんのためだった。


 外の竈門は屋根付きだから小雨でも大丈夫だけど家の中に入る途中でドシャ降りに巻き込まれるのは嫌だった。だから私は小雨の内に終えなければいけなかった。


 だけど間に合わず気付いた時にはドシャ降りの雨になっていた。これはまずいと感じた私は急いで正反対にある玄関を目指した。せめて髪が濡れるのは嫌だと両手で覆い走る速度を上げた。


 玄関に辿り着いた時には不思議なことに戸が開いていた。不審がり家の中に入ろうとしたら――。


「ぎゃあっ!?」


 急に弟の声が聞こえてきた。それもあたかも襲われたかのような声音で。


「うぅ!? お父さん!?」


 まただ。もう訳が分からない私は無我夢中で家の中に入ろうとした。だけど――。


「え?」


 ドシャ降りで気付かなかった、後ろから誰かがきてたなんて。


 気付いた時には私は誰かに引っ張られていた。右手をしっかりと握られており放そうにも放せなかった。本当は振り解き家の中に入るべきだったのだろうけど出来そうになかった。


 この時の私はただただ人攫いに遭ったのだと思い込んでいた。だけどそれは大きく外れていくことになる。この時の私に必要だったのは紛れもなく力であると言うことは言うまでもなかった。そうすれば私は――。


 く。弟や妹。救えたはずのお父さんやお母さん。ごめんなさい、私だけ生きてしまって。あの日さえこなければ私の――私達の家族は――。


 必ず無念は晴らします。それまでどうか見守っていてください。私は絶対に鬼を許しません。絶対に封鬼隊で活躍し全ての鬼を封殺します、それが私の出来る唯一の罪滅ぼしだから。


 あれから約三年が経過した。私だけが生き残り封魔一族に加わってそれだけ経過した。あの時のことは今でも鮮明に憶えている。弟の声が最後だったことは本当に忘れられない。


 私は封魔を名乗ることが許された上で椿と言う名を頂いた。椿がなにを齎すのかなんて分からないけど私は私の出来ることをするまでだ。最初の内は木刀だったけど次第に腕前を上げ遂に鋼の刀を手にしたときは込み上げてくる感情があった。忘れない。あのときの感情も今も――。


 たった一つの家族すらも護れなかった私だけど今は違う。新しい家族に出会い生まれ変わった。だから助けに行かなきゃいけない。この私が――今度こそ――。


 私は依頼を受けとある村にやってきた。比較的に鬼憑病(おにつきびょう)は夜の内に蔓延りやすく早朝から夕方にかけては物静かのようだった。その為か寝込みを襲われることが多発しており封鬼隊も警戒していた。私が救う手筈の村は無事だといいけど――。


「貴様が封鬼隊の者か?」


 私が顔を上げると密偵者である蒼装束(あおしょうぞく)の男がいた。先行で村に潜入し情報を搔き集めてくれる。なんだろう。今は慣れたけど昔は忍者ってなに? 状態だったのを思い出した。それにしても――。


「この眼が分からない?」


 封鬼隊は全員が妖力を身に纏える。その時に蒼炎を発するのだけどそれだけじゃなく両目が鬼のようになり眼光が溢れ出るようになる。それがなによりも証拠だった。つまり私の今は両目が鬼のようになり光っていた。だからその証拠を相手に見せびらかしていた。


「う!? ……ふむ。ではこれを」


 どうやら相手は鬼の目が苦手のようだった。ほんのちょっと静まり返り両腕を組むと頷き始めた。そして頷き終わると同時に両腕を解き右手に握っていたある物を渡してきた。


「確かに」


 私がある物を受け取ってから返事をする。渡されたある物は依頼主の代えようのないお金が入った麻袋(あさぶくろ)だ。前もって支払うのが暗黙の鉄則となっていた。もしここで受け取らない場合は不履行となる。もし受け取り逃げたのなら私は蒼装束の忍者から命を狙われることになる。そこまでの危険を冒してまでも私はほしいとは思わないしなにも感じない。でもこのお金は何度でも言えるけど依頼主の代えようのないお金だと言うことを肝に銘じなければいけない。


「ちなみに情報によれば間もなく鬼が出没するのだとか。では後ほど!」


 蒼装束の忍者はそう言いながら後ろに下がり煙玉を地面にやると同時に立ち止まっていた。煙が消えた頃には既にいなくなっていた。これは帰った訳ではなく今もなおどこかで私を監視している。要は最後まで遂行したかはたまた鬼に殺されたのかを確認するようだ。そうでないとお金を持ち逃げする輩がいるのだから気を付けないといけなかった。ただ付け加えると偽者の可能性が高いとも言えた。


「さてと――」


 そろそろねと感じた頃にはどこからか唸り声がしてきた。どうやら鬼が近付いてきているようだった。私は颯爽と走り出した。こんな村の中でしか戦えないのは情けないけど外は外で獣がいて危なかった。ただ本当は血の臭いを避けるために外に誘導するのも一つの手だった。だけど私は村の皆が寝静まっていると判断しあろうことか外に誘導はしなかった。これが命運を分けるとも知らずに――。


「っ!?」


 鬼の数がくる前に思っていた以上に多かった。普段なら三体ほどなのに今日はなぜか六体以上はいた。これでも今の私にはなんら不思議には映らなかった。むしろほんの少し多いなくらいだった。これが前触れであったことは言うまでもなかった。


「まずいな。……ううん。やらなきゃ!」


 そう意気込みを出し顔を下げ両瞼を閉じた。そして鞘から刀を取り出し蒼炎を身に纏った。次の瞬間――。一気に見開き素早く走り込みあっと言う間に鬼に詰め寄った。土煙でも上げるのかと感じるくらいの勢いで刀を振り上げ鬼を切りつけた。踏ん張りが利いているのか次の動作に遅れが生じていたけど鬼の方が雑魚なのか切られた一体目は地面に沈んでいった。


 良し! 次! と言わんばかりに体勢を取り戻し走り出した。残りは五体。次の鬼はこちらに気付いたのか急に早走りをし始めた。でもどこかぎこちなく走るその姿はいつ見ても不気味だった。元が人間であることを忘れたくはないけど被害をこれ以上に増やしたくない身内の依頼主が多いのが現状だ。く。次の鬼も――。


 金銭の格差が酷ければ野良鬼にだってやっちゃう。これだから格差是正は大事なんだ。被害をこれ以上に生まないためにも――。まずい。血の臭いに反応して残りの四体が走り始めた。これじゃ私の存在も気付かれるのも時間の問題だ。とりあえずまた踏ん張って二体目の鬼を振り下ろしで切ったけど――。


 ぐ。どうやら残りの四体は私に気付いたようだ。まずい。囲まれる。される前に突破口を作らないといけない。やるしか――。次の鬼を狙うために走り出したけど間に合うの? 駄目だ。踏ん張って切るだと間に合いそうにない。ならここは――。共に立ち止まる様子はなく仕方がないので私は突くことにした。これなら踏ん張る必要はないと感じそのままの勢いを維持しつつ鬼を腹ごと貫いた。


「っ!?」


 まずい!? 引き抜くことを入れていなかった!? このままだと――。


「え? なに? この雄叫びは?」


 村の外から獣の雄叫びが聞こえた。凄まじい地響きに森が騒めいていた。


「ま、まさか!?」


 そのまさかだった。たまにいる、自己変異した鬼が。


「う、嘘――」


 たまたまそこにいて血の臭いに誘われたのか大型の鬼が木より高かった。高さはゆうに六mは超えていると感じその大きさが遠くからでも分かった。地響きは大型の鬼が近付くたびに起き寝静まっていた村人が起きないか心配になった。ってそれよりも――。


「ど、どうすれば――」


 あんな大きい鬼は無理。普段は立ち止まらない残りの鬼も動きを止め辺りを見渡していた。


「と、とにかく――」


 危険を感じた私は遅れて突き刺した刀を引き抜き血を払った。そして走り出す――。


「我も助太刀しんぜよう」


 監視役の忍者も参戦してくれるようだ。これは心強い。初めて感じた、忍者の蒼炎姿を。それよりも――。


「二手に別れましょう! ここは!」


 早く片付けないと被害が広がる。ここは問答無用に協力しないといけない。倒せるの? あの大型の鬼を?


「っ!?」


 四体目の鬼に辿り着いた時には大型の鬼は最後の鬼を追いかけていたように感じた。まさか捕食対象なの? くっ。それよりも――。四体目の鬼を切るために即行で踏ん張り上から下へ切りつけた。地面に崩れ落ちる鬼を尻目にまた走り出し最後の鬼を目指した。他を見る余裕はない上にどうやら間に合いそうになかった。


「っ!? ……馬鹿な!? 鬼が鬼を食べただと!?」


 忍者の意外な反応だった。挟み撃ちを嫌ったのか最後の鬼は反転し走ったがその先には大型の鬼が迫ってきており物の数秒で捕食されていた。


「な、なんだ!? あれは!?」


 まずい!? 村人が起きてきた!? 災厄な展開――。


「ひぃっ!? 鬼だぁっ!? 鬼だぁーっ!?」


 一刻も早く逃げてお願いだから――。それにしても本当に私と忍者だけで倒せるの? この大型の鬼に――。

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