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最強の証明

「ケイちゃん、その荷物重くない? 代わりに持ちましょうか?」


「いえ、大丈夫です」


そんなやり取りをしながら、2人は道なき道を進んだ。ケイはまだ少し怖かったが、女性を信じて着いていった。その道中で、彼女がケイの緊張を和らげるために話しかけてきた。


「あ、そうだ。ケイちゃんは、今の名前を使わないの?」


「はい。なんだか、慣れてなくて。ゆず茶さんは?」


「アタシは今の名前の方が好きなのよね。こっちにはゆず茶なんて無いし、飲み物の名前だから人名っぽくないでしょ? だから、アマーリアって呼んでほしいの。いいかしら」


「じゃあ……アマーリアさん。これからよろしくお願いします」


「ええ、よろしくね」


そんな話をしながら歩く。やがて広場が見えてくると、ケイは体を強張(こわば)らせた。アマーリアと名乗った女性が前に出て、広場で待っていた2人の男に声をかける。


「帰ったわよ」


「ケイ……!」


セムトが表情を輝かせて、ケイに駆寄ろうとした。アマーリアは細身の(ロッド)を取り出して、セムトに向ける。


信仰の光あれ(acenditlux)


杖の先から光が溢れた。セムトは真正面から光を目にして、一時的に視力を失った。


「ケイ……? どこにいるの?」


セムトが立ち止まって周囲を見る。ケイはどうしていいか分からなくて、アマーリアに(すが)りついた。アマーリアは杖を動かして、空中に四角形を描いた。


神の名の下に(estindisol)誓約を交わす(bilepusedo)


1枚の羊皮紙が落ちてくる。ケイはそれを手に取った。


「アマーリアさん、これは?」


「白の誓約書よ。アナタも書いたことがあるでしょう?」


白の誓約書とは、プレイヤー間でチャットを送れるようにするためのアイテムだ。職業(クラス)が司祭であるプレイヤーが作ることもあれば、ゲーム内のキャラが売ることもある。ケイは手に持った紙を見た。書かれていることは読めないが、紙の上部と下部には1つずつ、プレイヤー名が書けそうな空きスペースがある。アマーリアが上部の空きスペースを指し示して言った。


「ここに、ケイちゃんの指で名前を書いてほしいの」


ケイは何の疑問も持たずに指を(すべ)らせて名前を書いた。紙の上部に文字が浮き上がる。アマーリアはケイが名前を書き終わったのを見て、満足そうに頷いた。そしてケイの手から紙を取って、セムトに渡す。


「アナタは、ここ」


視力が回復したセムトは、渡された紙を見て目を細めた。そして何も言わずに、示された場所に名前を書いた。ケイとセムトの間に白い(ライン)が繋がる。ケイはそれを見て、通信が繋がるようになったのだと考えた。


(本当に良かったのかな)


ケイはアマーリアのことを信頼していたが、それでも不安はあった。アマーリアがケイに近づいて、耳打ちする。


「彼がどうしてもケイちゃんと繋がっていたいみたいだったから、糸を繋げてあげたの。鎖よりはマシでしょう? それに、この糸ならアタシが間に割り込むこともできるから、いざという時は助けてあげられるわ」


ケイはその言葉に納得した。小声でアマーリアに礼を言う。アマーリアは言葉の代わりとして、微笑みを返した。


「おい。そっちの話が終わったんなら、もう1度俺と勝負しろ」


木に寄りかかって腕を組んでいた男が、セムトに向かって声をかける。アマーリアがケイから離れて、彼に近づいた。そして、他の人間には聞こえない程度の声量で囁いた。


「そんなに戦いたいなら、オレが相手になってやるけど?」


男が舌打ちして口を閉じる。アマーリアはそれを見て、満足そうに笑った。

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