去り行く
「では、我々は国に帰ります」
教皇が席を立つ。彼は神官長を伴って、そのまま部屋から出ていった。その背を見送って、城主が微笑む。
「私たちも帰りましょうか。夜、行きますよ」
城主と覆面の娘が、ケイたちの横を通り抜ける。その時、城主が茗荷の方に視線を向けた。
「茗荷は、何時帰ってくるのかしら?」
彼はその問いには答えなかった。城主は気にせず、去っていく。そうして、ケイと仲間たちだけが、部屋の中に残った。
「私たちも帰りましょうか」
アマーリアがケイに笑いかける。ケイは戸惑っているようだった。
「ええと……まだ、よく分かっていないんですけど……結局、どういうことになったんですか?」
マイルズが目を細めた。
「まあ、結局は問題の先送りにしかなってねえな。3つの国が争っていたのは事実だ。殺し合いが発生していたんだから、恨みや憎しみは消えねえだろ。国と国の関係だけなら、今の話し合いだけで片付けてもいいかもしれねえが……人と人の関係は、そうはいかねえ。絶対に敵国を許せねえと考える民たちは、これからも声を上げ続けるだろうな。教皇だろうが城主だろうが、皇帝だろうが……。その声を無視することはできねえ。3つの国の関係は、いつ壊れてもおかしくねえんだ。それでも、前に進むことはできた。それは、俺たちが勝ち取った成果だ。後はこれを持って帰って、皇帝に報告するだけでいい。それからのことは、俺たちには関わりのねえことになる……と言いたいところだが、まあそうはならねえだろうな」
「それは、どうして……?」
「そりゃあ、お前が向こうの国のトップに気に入られてるからな。使者を立てて交渉するのも、俺らに任せた方がやりやすいだろ。皇帝に報告してからでねえと、実際のところは分からねえが……そのあたりは、帰ってからの話だ」
マイルズはそう言って、ケイの腕を引いて部屋から出た。アマーリアとセムトも、同時に出てくる。最後に部屋を出た茗荷が、ケイに声をかけた。
「すみません。私は、里に帰らせていただいても……?」
「あ、はい。大丈夫です。でも、茗荷さんは家に帰ったら、夜さんと戦うことになるんじゃ……」
「今の夜と戦って、私が負けることは有り得ません。ご心配には及びませんよ」
茗荷は平然とした顔で言い切った。ケイは彼の言葉を否定する根拠がなかったので、心配そうな表情で送り出した。彼はすぐに姿を消して、その場には4人だけが残された。ケイはしばらく呆然としていたが、アマーリアに背中を押されて歩きだした。




