帝国の話
「ええと……アーヴァインさんという人です。ボクよりも、セムトの方がよく知ってると思うんですけど……」
ケイはそう言いながら、セムトの方を見た。セムトは、笑みを浮かべて頷いた。
「本名は、アーヴァイン・セレス・アルグストラ。母親の身分が低かったから、本来は皇帝になれないはずだったんだけど……僕が後押しして、皇帝にしてあげたんだ。僕の友達だよ」
壱華は、2人の会話を聞いて微笑んだ。
「やっぱり、そうなのね。貴方を殺せば、帝国は揺らぐ。……1度失敗した時点で、暗殺は諦めるべきだったわ。そうすれば、他の子たちを《花》にされることはなかったでしょうから」
教皇が柔らかな笑みを浮かべて、口を開いた。
「神官アマーリア。あなたが言ったように、我が国は平等とは名ばかりの有様だ。私は国内の平穏を保ちたいと思っているが、そのためにはまず戦争を止めなければならない。クライドの言い方は悪かったが、実のところ、私も同じ懸念を抱いていたんだ。和国の城主がいるのに、帝国の皇帝が来ていない。そのことが、気になっていた」
「ああ、それについてなんだが……」
ずっと黙っていたマイルズが声を上げる。そこにいた人々が全員、彼の方に視線を向けた。
「これはあくまでも、俺の考えだが……本当に、深い意味はないはずだ。あの男には、力が無かった。あの男自身も、そのことを理解していた。別の貴族のところに行かなければ、軍を動かす許可も出せない。そのことを気にして、自分は皇帝らしくないと言っていた。そんな男だ。ここに来なかった理由は……まあ、そのことが関係しているんだろうな」
教皇が目を細める。彼は低い声で呟いた。
「興味深い話だね。もう少し、聞かせてくれるかな?」
マイルズは頷いて、話を続けた。
「あの男は、セムトが帝国を動かしていると思っている。歪な国かもしれねえが、そんなことは関係ねえ。帝国の皇帝がアーヴァインであることは、変わらねえ事実だ。だが、アーヴァインは自分のことを信じていない。神聖国の教皇と和国の城主は、自分なりに信念を持って国を統治しているが……アーヴァインには、それがない。あるいは、それを持ってはいけないと思い込んでいるのかもしれないが……どちらにしても、同じことだ。和国と神聖国に構う前に、アイツはアイツで、自分なりの国を作らねえとならねえ。それには、長い時間がかかるだろうな」
教皇は彼の話を聞き終えてから、傍らにいた神官長に声をかけた。
「クライド。君は、どう思う?」




