審問未満
「何と見苦しいことか。やはり、地位は人を腐らせるな」
その声は冷徹で、鋭かった。騒いでいた神官たちは、教皇の怒りに触れたことを察して青ざめた。アマーリアは全く動じず、教皇を見つめていた。教皇は彼女の目を見返して、話を続けた。
「彼らのことは気にしないでくれ。私は君のような神官を、好ましく思っているのだから。聖書を引用して私の言葉に反論するような者は、君が初めてだよ」
アマーリアは真剣な表情になった。
「……そうよね。アタシも、国にいた頃は何も言わなかったわ。聖書をどれだけ読み込んでいても、位が低い人間とは誰も話をしてくれなかったから」
「そうだったか。それは勿体ないことだな。では、私と話をしようじゃないか。君の意見が聞きたいのだ。そうだな……例えば、『神に愛されることは人の喜びである。神に仕える者はその喜びを広く伝えていく義務がある』という聖句については、どう思っているのかな?」
「……そうね。神に捧げられた金の燭台を盗んだ男について、神が語ったことと同じよ。『信者は男に、それは神の燭台だと伝えた。男は言った。自分は神など信じていない。そんな存在が居れば、自分も親兄弟も、飢えることはなかったはずだと。信者は怒り、男を傷つけようとした。神はその行為を静止して、貧しい者への庇護は富める者の義務であると伝えた。男は燭台を掴んで逃げた。信者は男への怒りが収まらず、強い言葉で罵った。神はそれを咎めて言った。神を信じられない者もいる。その者の境遇や心は、尊重されねばならないと』」
教皇は彼女の言葉を聞くと、満足げな表情になって頷いた。
「そうだな。私も、君と同じ気持ちだよ。信仰は他人に強制するものではない。我らの神は、そんなことを望んでいるわけではないのだから」
教皇の周囲にいる神官たちが顔色を変える。神官長が声を上げた。
「また、そのようなことを……! おやめください。あなたは、教皇なのですよ。いつまでも、気軽な神官のような物言いをして……まったく、あなたという人は……」
「クライド。君は、余計な荷物を背負いすぎているんだ。私たちがやるべきことは、神官として神に仕えることだけだろう?」
教皇は穏やかな声で答える。壱華が目を輝かせた。
「教皇様は意外と親しみやすい方だったのね。私、勘違いしていたわ。それに、そちらにいる神官の方の事も。私たちのために、心を砕いてくださったのね。ありがとう」
その言葉を聞いて、アマーリアが苦笑する。
「神官として、言うべきことを言っただけよ。気にしないで」




