神殿会合(後編)
ケイは女性が消えた壁に手を当てた。柔らかい感触が、手のひらに伝わってくる。ケイはそのまま、手を前に出した。その手が、壁の中に沈みこむようにして消えていく。彼女は息を吸って、壁の中に足を踏み入れた。柔らかい壁を通り抜けて、ケイは白い部屋にたどり着いた。部屋の中央には机があり、その周りには椅子が置かれている。その中の1つに、あの女性が座っていた。女性のすぐ後ろに、黒服の人間が立っている。女性はケイが入ってきたことに気づくと、笑みを浮かべて手招いた。
「私の隣に、座ってくださる?」
ケイはその言葉に頷いて、彼女の隣に座ろうとした。後から部屋に入ってきたマイルズが、ケイの肩を掴んで止める。
「そっちはダメだ。俺たちは一応、帝国側の使者ってことになってる。和国の人間と並んで座ってたら、神聖国側の人間に怪しまれるだろ。帝国が和国と組んで神聖国を倒そうとしているかもしれないと思われたら、話し合いができなくなるかもしれねえ。それだけは避けねえとな」
マイルズが低い声で告げる。ケイは驚いて固まった。女性は目を細めて、マイルズに向かって話しかけた。
「そんな事、気にしなくて良いのに。私はケイちゃんとお話がしたくて、此処に来たのよ。隣に座ってほしいと思うのは、当たり前のことではなくて?」
「どうだろうな。ケイが俺たちにとって特別な人間だってことが分かってるから、そっち側に取り込もうとしてるんだろ? 茗荷は元々そっち側の人間だから、魔の森でのことも全部正直に話してるだろうしな」
女性とマイルズが睨みあう。アマーリアがケイの手を引いて、少し離れた場所に座らせた。セムトが彼女の隣に移動する。マイルズがため息を吐いて、女性から離れた。最後に神聖国の人々が部屋に入ってきて、席につく。その中の1人が口を開いた。
「……さて。それでは、話し合いとやらを始めましょうか。私は神聖国の代表、教皇エルヴェツィオと申します。あなた方のお名前も、聞かせていただけますか?」
彼の言葉を聞いて、和国の女性が笑みを深めた。
「私は和国の城主よ。名は、黒鋼壱華。よろしくね」
ケイは横にいるセムトに視線を向けた。セムトは首を傾げて言った。
「僕はセムト。一応、帝国ではそれなりに高い地位にいるけど……正直、そういうことには興味がないんだ。僕はケイの願いを叶えたくて動いているだけだし、今回の話し合いもケイの発案だから……僕より、彼女と話してほしいかな。よろしくね」




