カルヴィン山(前編)
次の日の朝。4人は予定通り、カルヴィン山に向かった。昨日出会った2人とは、宿を出る時間が違ったのか、今日は会えなかった。4人は町の北門を抜けて、山に入っていった。登山道は、緩い坂道になっている。道の周囲は霧が濃く、すぐ隣にいるはずの仲間の姿も見えない。ケイはセムトと繋いだ手を強く握って、声を上げた。
「マイルズさんとアマーリアさんは、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ケイちゃんも、迷わないで。前だけを見て、進めばいいの」
霧の向こうからアマーリアの声が聞こえてくる。ケイは周囲を見た。霧のせいで、道が見えない。
「前って、どっちですか? ボクには、よく見えなくて……」
「顔を上げろ。他の場所ならともかく、この山では自分の正面が前で、背後が後になる。振り返らなければ、前に進めるんだ。いいか、何があっても戻るなよ。道を逸れずに、進んでいけ。途中で何か言われるかもしれねえが、気にするな。休める場所では、霧が晴れる。そこに着くまでは、誰のどんな言葉が聞こえても、正面に向かって進んでいくんだ」
マイルズの声に頷いて、ケイは坂道を登っていった。道の先を目指して、ゆっくりと足を動かす。しばらくそうして進んでいたケイは、隣にいる男が静かすぎて不安になった。
「ね、ねえ。セムト、いるよね? もっと近くに来てよ。どうして、姿が見えないの?」
声をかける。相手の声は、返ってこない。繋いだ手を引いても、その先にいるはずの人は現れない。
(ボクはもしかして、夢を見ていたのかな。今まで、ずっと。皆と出会えたのも、夢で……目が覚めたら、ボクはまた、一人ぼっちになるの?)
恐怖と不安で押し潰されそうになる。ケイは無我夢中で、足を前に出した。少し先の方に、白い光の壁が見える。ケイはそれに見覚えがあった。
(アマーリアさんの結界だ!)
繋いだ手を引っ張って走り出す。息を切らせて光に飛びこむ。霧が晴れて、周囲がよく見えるようになった。ケイは隣に視線を向ける。そこにはセムトがいた。彼は不思議そうな顔をして、彼女を見ていた。
「急に走り出したけど、どうしたの?」
「……ちょっとだけ、怖くなったんだ。セムトの方こそ、どうだったの? ボクの顔、霧で見えなかったでしょ」
「うん、そうだね。でも、ボクはケイが居なくなったら、すぐに分かるから……今は、ずっとそこに居たでしょ? だから、あんまり気にしなかったんだ」
「そうなんだ。……じゃあ、何であの時、何も言ってくれなかったの?」
「どういうこと? 僕を無視して先に行こうとしてたのは、ケイの方だよ。道の脇には綺麗な花畑や、澄んだ泉があったでしょ? 僕は少しくらい休んだっていいと思ったけど、君が進もうとしたから諦めたんだ」
話が噛み合わない。ケイは困って、周囲を見た。そこは少し開けた場所になっていて、マイルズがテントを広げて立てている。アマーリアが2人を手招きした。
「まずは、休みましょうか。何が起こったのかは、それから説明するわ」




