運が悪いということ
4人は翌日の早朝に、カルドラを出てケイラに向かった。太陽は雲に隠れていて、昼なのに周囲が薄暗くなっていたけれど、4人は気にせず歩き続けた。
「もう少しでケイラに着く。そこからは山登りだな。ゆっくり休めるのは、次の町が最後になるぞ」
マイルズがそう言った瞬間に、道の横にあった岩の陰から男たちが飛び出してきた。男たちは10人組で、ナイフを持っていた。彼らは4人を取り囲んで、口々に言った。
「よお兄ちゃんたち、カルヴィン山に行くのかい?」
「ここを通るなら、荷物を全部置いていってくれよな。怪我したくなきゃあよお」
マイルズが拳を握って、目の前の男に殴りかかる。彼はあっという間に1人の男を気絶させて、周囲を見回した。
「まだやる気か?」
男たちが騒ぎだす。その中の1人が、アマーリアに向かってナイフを突き出した。アマーリアは表情を変えず、向かってきた男の手を掴んで引き倒した。
「やべえ、こいつら強えぞ!」
「子供だ! 子供がいるだろ、そっちを狙え!」
男たちが声を張り上げる。セムトがケイを抱き寄せて、呪文を紡いだ。
【貫け薔薇の棘】
ケイに群がってきた男たちが、地面から伸びてきた蔦に拘束される。後ろでそんなやり取りが繰り広げられている間に、マイルズは残りの男たちを全員倒していた。
「……えっと、その……大丈夫ですか?」
セムトの腕の中に抱えられた状態で、ケイがマイルズの方を見る。マイルズは意識を失った男たちを縄で縛って、道の脇に転がした。
「相手のレベルも分かんねえ奴らに、俺が負けることはねえよ。心配すんな」
「そう、ですよね。それで……この人たちは、どうなるんですか?」
「こいつらはもう、俺たちに絡んでこねえよ。セムトの薔薇に捕らえられてる奴らに引き渡せば、それで終わりだ。向こうには役人もいねえし、仕事があるわけでもねえ。連れて行っても、ろくなことがねえからな」
ケイは悲しそうな顔になって黙った。アマーリアが彼女と目を合わせて、微笑んだ。
「ケイちゃんのせいじゃないわ。戦争が続いて、国内が荒れてるもの。この大陸で生き残るために、盗賊行為を行う人たちがいるのは不思議じゃない。その状況を何とかしたくて、アタシたちは旅をしているんでしょ?」
ケイが頷く。セムトが指を鳴らして、捕らえていた男たちを解放した。男たちは道の脇に転がされている仲間を引きずって、遠くの方に消えていった。4人は盗賊たちには構わずに、次の町を目指して歩きだした。




