最初の町まで
曲がりくねった道に沿って、4人は進んでいく。整備されていない道は歩きにくく、分岐も多かった。ケイは荷物を背負いなおして呟いた。
「アマーリアさんの回復魔法とマイルズさんの案内が無かったら、カルドラを目指すことすら出来なかったと思います。ありがとうございます」
「気にすんな。オレもユズも、好きでやってるからな。そうだろ?」
「そうね。アタシたちは2人よりは旅慣れてるから、遠慮なく頼ってちょうだい」
マイルズとアマーリアが同時に言う。セムトが拗ねたような表情になって、ケイの腕にしがみついた。
「ここはまだ帝国の領土なんだから、僕だってケイの役に立てるんだよ。地面の中にある根を伸ばして探査すれば、最短経路でカルヴィン山に行けるんだし……」
「そりゃあ、道を選ばなけりゃあどうやっても着けるだろうな。だがな、それは結構危ねえんだよ。野宿も増えるし、治安の悪い都市の近くを通ることにもなる。オレたちが選んでる道は、遠回りだがある程度の安全が保証されてる道だ。お前だって、ケイを危険な目に遭わせるのは嫌だろ?」
「……それは、そうだけどさ」
セムトがケイの腕を抱えて顔を伏せる。ケイは立ち止まって、彼に声をかけた。
「ボクはセムトが一緒にいてくれるだけで嬉しいから、大丈夫だよ」
「ホント?」
セムトが顔を上げる。彼は縋るような目で、ケイを見ていた。ケイは彼と目を合わせて、頷いた。
「うん、本当。だから、大丈夫だよ」
セムトが安心したような顔で、ケイから離れる。2人の後ろにいるアマーリアが、話が途切れたところで言葉をかけてきた。
「2人とも、早く行かないと日が暮れちゃうわよ。いくら安全な道を選んでるって言っても、それは他の道と比較した時の話なんだから。暗くなったら、この道を選んだ意味がなくなっちゃうわ」
「そうですね。ほら、セムト。行くよ」
ケイがセムトの手を引いて歩きだす。セムトは無言で着いていった。時間が進んで、太陽の位置が変化していく。4人がカルドラの町に到着した頃には、日は沈みかけていた。彼らは町の東側にある門を抜けて、中心部にある宿を目指した。宿の従業員が扉を閉めるために外に出てきたところで、マイルズが彼を呼び止める。
「すまねえが、入れてくれ。代金は相場の倍で出すよ」
従業員が受付の人間に取り次いで、マイルズが彼と交渉する。4人は何とか、1つだけ空いていた部屋に泊まることができた。
「お金のことなら気にしないでいいよ。僕がいくらか持ってきたから」
セムトが机の上に革袋を置く。金属のぶつかる音を聞いたマイルズが、袋を取り上げて叫んだ。
「お前は金銭感覚が無さすぎなんだよ! こんなに持ってきて、何かあったらどうすんだ!」
セムトが首を傾げる。ケイが呆れたような顔でため息を吐いて、アマーリアが笑い声をあげた。その日の夜は、そうして過ぎていった。




