旅の前にするべきことは
「それでは、私はこれで。会談の件は必ず他の2国に伝えておきますので、安心してください」
アーヴァインはそう言って、部屋から出ていった。彼の姿が見えなくなってから、ケイは持っていた地図をアマーリアに渡そうとした。
「あの、この地図を……」
「ああ、それ? アタシとマイルズはカルヴィン山に行く方法を知ってるから、必要ないわ。何か問題が起こったときのために、ケイちゃんが持ってちょうだい」
「あ、はい。じゃあ、ボクが持っていきますね。ええと、それから……」
「旅の準備ね。アタシたちが昔使ってた道具もあるし、ケイちゃんの荷物に入ってる道具もあるから……新しい物は買わなくてもいいと思うわ」
「でも、ボクは2人分の物しか持ってなくて……アマーリアさんたちも、2人旅だったんですよね?」
ケイはそんな話をしながら、茗荷の方に視線を向けた。茗荷は平然とした表情で口を開いた。
「私のことはお気になさらずとも大丈夫です。忍者として、どのような場所でも生きていけるように修行を積んできましたので」
「ええと……そう、ですか。じゃあ、ボクはこれから、何をしたら……」
ケイが迷うように視線を動かす。セムトが彼女を抱き寄せて、その耳元で囁いた。
「じゃあ、僕の家に帰ろうよ。これから、長い旅をすることになるよね? 今日1日は休息に当てて、ゆっくり過ごすのがいいと思う」
マイルズが彼の話を聞いて、深いため息と共に言葉を吐き出した。
「ソイツのことは気に食わねえが、言ってることは正しいな。今日はソイツの家に泊まって、体を休ませるべきだ。あの無駄に豪華な広い家は、宿としては最高級だからな」
「そうね。アタシたちも、ケイちゃんと一緒に泊まるわ。いいわよね?」
アマーリアが有無を言わせない笑顔で問いかける。セムトは気にせず頷いた。
「うん、いいよ。部屋はいっぱいあるから、好きなところを使って。ケイは、僕と一緒の部屋だけど」
アマーリアが笑みを深める。彼女はセムトに抱きしめられて固まっているケイを見ながら、話を続けた。
「それは彼女に選んでもらいましょ。ねえケイちゃん。アナタは、誰と同室になりたいの?」
「アマーリアさんがいいです」
ケイは即答した。セムトが拗ねたような表情になって、彼女を抱きしめる腕に力を込めた。
「……ケイは、その人のことを信頼してるんだね。どうして?」
「だって、同性だから。それにアマーリアさんは、優しい人だし……」
ケイが懸命に言葉を紡ぐ。セムトは納得がいっていないようだった。
「その人だって、何を考えてるか分からないとは思うけど……ケイがそうしてほしいのなら、仕方ないか。4人で泊まれるように、部屋を改装しよう。それでいいよね?」
ケイは無言で、首を縦に振った。部屋割りの話はそれで終わった。




