世界の在り方
円形の土地の中央には高い山があり、そこから3方向に向かって川が流れている。川は土地を扇状に区切っていて、その区切られた土地が3つの国の領土となっている。アーヴァインは川の側にある帝国領の町をいくつか指さして、ケイに向かって話しかけた。
「それで、あなたは和国と神聖国の、どちらを攻めるつもりですか?」
地図を見ていたケイが、その言葉を聞いて顔をあげる。彼女は戸惑ったような表情で口を開いた。
「あ、えっと……その、どうしても戦争するしかないんでしょうか。話し合いでは、解決できないんですか?」
アーヴァインは彼女の言葉を受けて、困ったような笑みを浮かべた。
「そうですね。和国は神聖国のことも我が国のことも敵だと思っていますし、神聖国は神を崇めない人間はどうなってもいいという考えを持っています。話し合いでは、どうにもならないでしょうね」
ケイは俯いた。アマーリアが微笑みを浮かべて話し始める。
「あら、だったらアタシが帝国側の使者として神聖国に行ってもいいわよ。セイラシア神の教義では、同じ神を崇めるもの同士で争うことはできないということになっているから、アタシが使者になれば神聖国は話し合いに応じると思うわ」
アーヴァインはその言葉に頷いて、地図の上に指を置いた。彼は帝国から和国に向かって、川を越えるように指を動かしながら話を続けた。
「なるほど。そういうことでしたら、神聖国と事を構える必要はなくなるかもしれませんね。上手く交渉できれば、神聖国と手を組んで和国を落とすことができるかもしれません」
ケイが顔を上げて、必死な様子でアーヴァインに問いかける。
「でも……その、ボクに戦争を終わらせてほしいって言ったのは、和国から来た人なんです。それでも、ダメですか? その人と協力したら、なんとかなりませんか?」
「それは私には分かりませんね。その方に聞いてください」
アーヴァインは穏やかな声音で答えた。ケイは彼の言葉に納得したようだった。彼女はクルトの服の端を掴んで、軽く引っ張りながら言った。
「あのさ、茗荷さんは多分、ここには来てないよね。いったん家に帰って、そこで話さない?」
クルトは自分の服を掴んでいる彼女の手に、上から自分の手を重ねた。そして彼女と目を合わせるためにしゃがんで、微笑みながら告げた。
「大丈夫だよ、ケイ。彼は誰にも気づかれないように、城に忍び込んでいるはずだから。君が呼べば、すぐに来ると思うよ」
ケイは何度か瞬きして、周囲を見回した。
「変わったところはないように見えるけど……じゃあ、呼んでみるね。あのー、茗荷さーん? 居ますかー?」
遠慮がちに、小声で投げかけられた言葉。それに反応して、部屋に飾られた観葉植物の影から、黒い服を着た人間が現れた。




