軍人と皇帝と一般人(後編)
「そうだね。僕はエトヴィンのことが好きだけど、君がケイと戦うというのなら話は別だ。ケイは僕の居場所だから、僕は彼女を守るために戦うよ」
ケイの背に腕を回して、セムトが彼女を抱き寄せる。エトヴィンと呼ばれた壮年の男は、彼女に向けていた視線をセムトの方に移して、苦笑を浮かべた。
「それは困るな。……しかし、そうか。その子がクルト君の居場所だというのなら、先ほどの願いを叶えることもできるだろう。すまないね。私も苦労しているんだ。帝国軍の指揮官としての威厳を保たなければ、すぐに反乱を起こされてしまう。ただの子供の願いを聞き入れることは出来なかったが、クルト君の居場所であれば話は別だ。では、改めてクルト君に話を聞こうか。君は帝国軍を動かして、どこを攻めるつもりなのかな?」
「え、知らないけど」
セムトは笑顔で言い切った。エトヴィンはそんな彼を、信じられないものを見るような目で見ていた。
「……クルト君。戯れはやめてくれないか。居場所だというからには、この子を動かしているのは君なのだろう? 君がどのような理由からこの戦争に関わろうと思ったのかは知らないが、君のような優秀な魔術師が協力してくれるのであれば、この戦争は必ず我が国の勝利で終わらせることができる。私はそう思ったからこそ、君たちと共闘することを受け入れたのだ」
「うん。だから、ケイと話をしてよ。僕自身はどっちでもいいんだ。戦争が終わっても、終わらなくても、僕には何の関係もないからね。僕はケイがやりたいと思ったことに付き合ってるだけだから、ケイに聞いてくれないと話は進まないよ」
エトヴィンがため息を吐いて、アーヴァインに目を向ける。
「アーヴァイン君。これは、どういうことだね? 我が国の宝であるクルト君が、見知らぬ子供の意見に左右されているとは。このようなことはあってはならない。今すぐにでもこの子供を捕らえて、クルト君から引き離すべきだ」
「それは不可能ですよ、エトヴィン卿」
アーヴァインは真顔で言った。
「クルトという男の性格を、あなたはよく知っているでしょう? 彼の気まぐれは、今に始まったことではないはずだ。彼より先に彼女を見つけられなかった時点で、我々には他の選択肢など無いのです」
エトヴィンはアーヴァインを睨みつけた。アーヴァインはその事には構わず、エトヴィンに近づいていった。彼はエトヴィンの耳元で、声量を落として呟いた。
「それと、そんなことをクルトの前で言うのは止めてください。彼はあのお嬢さんから引き剥がされるとなれば、何をするか分かりませんから。彼からお嬢さんを取り上げたいのであれば、お嬢さんの方から彼を嫌って出ていくように仕向けた方が良いと思いますよ」




