アーヴァイン先生の説明回(後編)
「アーヴァインさんは、ボクがセムトの居場所になってるって言いたいんですか?」
「ええ。……と言っても、貴方には自覚が無いでしょうね。地属性の魔術師が人間を居場所として選ぶこと自体は、稀にあることです。ただ、彼らは居場所から離れることを嫌うので、普通は居場所となった人間を《花》にして自分の側に置くんですよ。そもそも、彼らにとっての《花》とはそういうものです。彼らは気に入った人間を自分と同じものにしたくて、《種》を植えるのです。《花》になった人間は魔術師の感情に同調し、共鳴します。同じ気持ちになるから、同じ行動を取るようになる。支配されているように見えるのは魔術師の気持ちを誰よりも理解している《花》が魔術師に協力しているからなんです」
「……もしかして、アーヴァインさんも……?」
ケイは不安げに、アーヴァインの胸に視線を向けた。アーヴァインは苦笑を浮かべて、首を横に振った。
「私には《種》は植えられていませんよ。……私は皇帝になるために、クルトと手を組んでいるだけです。ですので、そうですね。今お話していることも、真実ではないかもしれませんね。彼に頼まれた私が、事実を曲げてお伝えしているのだと言われても、私は反論できません」
「そうですか。でも、ボクは信じますよ。だってアーヴァインさんは、ボクのために話してくれているんですから」
ケイは真っ直ぐな目でアーヴァインを見た。アーヴァインは少し嬉しそうにしながら、話を続けた。
「ありがとうございます。まあ、そういうわけで……クルトが貴方に《種》を植えていないのは、貴方が何の力もない農民だからではないかと。こう言ってはなんですが、クルトは貴方がたの中で最もレベルが高いので……そうですね、貴方が本当に彼から逃げたいと思うのなら、格闘家と神官で抑え込んでいる間に、クロトビかスクマトゥスに亡命するしかないでしょうね。クロトビだと大陸の外に出る術がないので、スクマトゥスに向かって難民用の船に乗るのが最も良い方法かと。それから南に行くのか、西に行くのかは、貴方にお任せしますよ」
「何を……!」
セムトが焦った様子で立ち上がる。アーヴァインは彼には構わず、真剣な表情になって言った。
「何も言わずに勝手に人の隣を居場所にして、そのことを伝えもせずに放っておくのはどうかと思いまして。……お嬢さん。貴方は戦争を終わらせたいと言いましたね。この大陸で起きた戦争。それがいつ、どのような理由で始まったのか。それは誰も知りません。クロトビの城主が変わっても、帝国の皇帝がお飾りでも、戦争は変わらず続いている。1つの国が揺らいでいても、戦場では3つの勢力は常に拮抗しています。まるで、神がこの戦争を続けようとしているかのような……そんな奇妙な状況なのです。クルトが側にいたとしても、それだけでこの状況を変えられるとは思えません。ですから、これは私からの提案です。貴方は、貴方自身の幸福のために、全てを捨てて大陸の外に逃げても良いのですよ」




