事情説明と皇帝の話
アーヴァインが応接間の中心に移動して、長椅子に座る。ケイはそれを確認して、話し始めた。
「えっと……ボクは、ケイといいます。帝国の領内にある村で生まれた農民です。ボクは転職したいと思ってるんですけど、セムトが許してくれなくて……」
「ああ、それは止めた方が良いですね。貴方も知っていると思いますが、クルトは極度の寂しがり屋です。気に入った人間を繋ぎ止めるためであれば、彼は手段を選びません。貴方が転職して力を手に入れれば、彼は今よりも強引に貴方を手に入れようとするでしょうね」
アーヴァインが穏やかな声音で伝えた内容を聞いて、ケイの背筋に冷たいものが走った。彼女は横目でセムトを見たが、彼はアーヴァインの言葉を否定しなかった。マイルズがセムトを睨みつける。
「心配すんな。今は難しいかもしれねえが、いつか俺がそいつを倒してやる。そうしたら、お前は自由に生きられるだろ」
アマーリアがマイルズの言葉に頷いて、ケイに向かって笑いかけた。
「……そうね。アタシも、ケイちゃんがどうしても嫌だと思ったなら、その時は一緒に逃げてあげるわ」
セムトが表情を消す。彼は低い声で告げた。
「どうして? どうして、嫌なの。……僕はケイのこと、大切だと思ってるのに。ケイにとって、僕はどうでもいい人間なの?」
「そうじゃないよ。けど、なんていうか、その……」
ケイは言葉に詰まった。彼らの会話を聞いていたアーヴァインが、呆れたように息を吐く。
「クルト。そういう言い方では誤解されると、何度も伝えたでしょう」
彼はケイと目を合わせると、穏やかな表情になって問いかけた。
「お嬢さんは、地属性の魔術師がどういうものなのか、知っていますか?」
ケイは目を見開いた。
「ええと……居場所から動かなくて、人を勝手に《花》にして1つの町や村を支配する人……?」
「そうですね。間違ってはいませんが、正しい認識とも言えません。この世界には6つの属性があり、人も動物も魔物も、いずれかの属性を持って生まれてきます。魔術師とは己の持つ属性の純度を高めることで世界に働きかけられるようになった人間のことです。その性質上、魔術師は極端な性格として見られることが多い。それは1つの属性を極めたことで、その物が持つ性質に近くなるからです」
ケイは黙ってアーヴァインの話を聞いている。セムトは複雑そうな顔をしていたが、口は挟まなかった。アーヴァインはそんな2人の様子を見守りながら、説明を続けた。




