ワガママな子供みたいな男に振り回されているという点においては同じ
「私には、帝国軍をお貸しすることはできません。先ほど話したことを覚えていますか? 私は皇帝として立っただけで、発言力がないのです。ですが、あなたであれば話は違う。あなたはクルトが探していた、彼の宝物なのですから。あなたが自分で、帝国軍を指揮している貴族に会いに行ってください」
アーヴァインはそう言うと、ため息をつきながら立ち上がった。
「では、私はこれで失礼します」
ケイは彼を止められなかった。彼は応接間の扉を開けようとした。その背に向けて、声がかけられる。
「……ねえ、君はまだ過去のことを気にしてるの?」
彼の足が止まった。ケイは隣に目を向けた。セムトは常と変わらぬ穏やかな表情で、言葉を続けた。
「それとも、今でもそうなのかな。僕はちゃんとみんなに伝えたのに、ちょっと居なくなってただけでそうなるの? ……相変わらずなんだね、この国は」
部屋の床から蔦が伸びる。あっという間に扉を覆った蔦を見て、アーヴァインは目を細めた。
「ダメだよ、セムト」
ケイがセムトの腕を掴む。
「アーヴァインさんは王宮に帰りたいんだから、邪魔しちゃダメ」
扉を覆った蔦が剥がれる。セムトはケイの手に触れて、笑みを深めた。
「……うん、わかった。邪魔しない」
2人の会話を聞いていたアーヴァインが、苦笑を浮かべて振り返る。
「大丈夫ですよ、お嬢さん。王宮に戻っても、私はどうせ何もできませんから。……クルトの言葉は正しいのです。私には、この国を変える力はなかった。薬の流通量が減ったのも、クルトが作らなくなったからであって、私の力ではありません。先ほどの言葉は、言い方は厳しかったと思いますが、真実です」
ケイは彼の方に視線を向けて、頷いた。
「あ、はい。それは分かってますけど……あなたはそれでも帰りたいんですよね? セムトのことは気にせずに、行きたいところに行ってください」
彼は楽しそうな表情になった。
「ありがとうございます。……ですが、今日はこの屋敷に泊まらせていただければと。皇帝になってからはクルトと話すことが少なくなりましたから、彼も寂しがっているのでしょうし……。お嬢さんとも、もっとお話したいと思いましたから」
そこで彼は言葉を切って、ケイに向かって笑いかけた。
「そういえば、まだお嬢さんのお名前をお聞きしていませんでしたね。それに、側にいる他のお2人のことも……。何故か突然魔の森に侵攻したクロトビの軍が、魔物に襲われて逃げ帰ったという話も聞いて気になっていたのです。もしも何か知っていることがあれば、話してくださいますか?」




