姉と弟
茗荷はその日のうちに村に戻った。暗い顔で村の入り口を見つめていたケイが、彼の姿を見て安心したように笑った。
「ほら、帰ってきた。僕が言ったとおりでしょ? 良かったね、ケイ」
彼女の隣にいたセムトが、笑顔で言う。彼女はその言葉に頷いて、近づいてきた茗荷に声をかけた。
「えっと、その……疲れてませんか? お腹が空いてたら、ご飯とか……」
「有難う御座います。私のことは気にせず、先に休んでいてください。……実は、故郷で末の妹と会ったのです。私のことや姉のこと、今後の事……様々なことを話しました。私はこれから、妹と話したことを姉に伝えるつもりです。ですが、それを待っていては貴方の眠る時間がなくなってしまいますから……私のことは気にせずに、お休みください」
ケイは彼の言葉を聞いて俯いた。セムトが彼女の背に腕を回して抱き寄せる。2人はそのまま、家に入っていった。茗荷は彼らを見送って、村の中心部に向かって歩いていった。彼は村の真ん中で立ち止まった。家と家の間にある暗闇から、声が聞こえた。
「夜は元気にしていたか?」
その声の主は風鈴だった。茗荷は彼女の言葉に頷いて、話し始めた。
「何も変わっていなかった。城も、人も」
「姫様も?」
「……ああ。あの人は俺が《花》ではなくなったことを知って、喜んでくれたよ」
「そうか。……それで? お前はこれから、どうするんだ。夜に文を送るのか?」
「そのつもりだ」
黒装束の風鈴が、茗荷の前に姿を現す。
「それなら、私とお前は敵同士だ」
「祖国を裏切るのか」
「私たちは、ずっと前に……あの男の《花》にされた時に、裏切っているじゃないか。姫様がお前を許したのだって、慈悲深い主だということを示して、夜の心を繋ぎ止めておきたかったからだ。お前のためじゃない。あの人は、私たちのことを信じていない。そんな人に、お前はこれからも仕え続けるつもりなのか?」
彼女の推測は正しい。茗荷はため息と共に言葉を吐き出した。
「……どちらにせよ、同じことだろう。1度裏切った忍者を信じる者など、何処にも居ないのだから」
「ケイという娘は、信じてくれる」
風鈴の反論は、確信に満ちていた。
「あの魔術師の愚かさを知って、それでも側にいることを許す子だ。私たちにどんな過去があっても、受け入れてくれるだろう。……だから、私は」
「言うな」
茗荷は彼女の言葉を遮った。
「姉上の意見は聞いた。もう良いだろう。話は、終わりだ」
茗荷は姉に背を向けて立ち去った。姉は彼を追わなかった。




