城主
その娘は、早世した先代の跡を継いで城主となった。彼女の父母は2人とも、流行病で亡くなったと噂されている。
「《花》となったから帰らなかったのだと思っていたけれど……違うのかしら?」
彼女は茗荷を見つめて、楽しそうに笑った。彼は彼女の前に進み出て、跪いた。彼は頭を下げたままの状態で、言葉を発した。
「《花》は取り除かれたのです。魔の森の村に居た、高位の神官の手によって」
「まあ。魔の森に人が暮らしているなんて、思いもしなかったわ」
彼女の声は穏やかだ。けれど茗荷は知っている。彼女は黒鳶の2大忍軍を味方に引き入れて、父母を毒殺したのだと。彼女はそういう人間なのだ。今ここで、茗荷の首を飛ばすという選択をする可能性もある。そのことを理解した上で、それでもいいと考えて、茗荷はここに来たのだ。
「おそらく、外から来た人間でしょう。森に元々あった村は、既に滅びておりましたので。彼らは神官と格闘家、農民と例の魔術師の4人組です。滅びた村の建物を住居としていました。村の周りには神官の手で結界が張られており、魔術師は森の生き物を自在に操れるようでした。彼らの中心に居たのは農民です。魔術師が《花》を取り除くことに同意したのも、農民がそうして欲しいと訴えたからです。農民は全ての《花》を取り除こうとしています。《花》となった者、黒鳶の忍者たちは恐らく、すぐにでも戻ってくることでしょう」
茗荷は話が終わったら殺されると思っていた。だからせめて、自分が見聞きした物事を伝えてから死のうとした。話が途切れたということは、彼が伝えるべきことが無くなったことの証だ。それを悟って、妹が息を呑む。
「面白いことを言うのね、茗荷ったら」
城主の少女が笑い声を上げる。
「貴方も知っているでしょう? 『蛟』の子たちは私を認めていないのよ。それに貴方たちも。戻れば死ぬと分かっていて、それでも戻ってくるのは……きっと、茗荷だけだわ」
彼女は茗荷の頭に触れて、ゆっくりと撫でた。彼が殺されなかったことに安堵した妹が、柱に寄りかかって息を吐く。城主はそんな彼女には構わず、茗荷に向かって話し続けた。
「だから、私は貴方を待っていたの。貴方だけは私を裏切らないと、信じていたから」
その言葉を聞いた茗荷は、城主の意図をすぐに察した。魔の森の村に潜入し、城への報告を続ける。そのために、城主は茗荷を殺さずに村に帰そうとしているのだと。
「有難う御座います。……残念ながら、私はすぐに村に戻らなければならないのですが……夜が生きていたのは僥倖でした。黒鳶と文のやり取りをしていても、生き別れていた妹と話しているのだと言えば、彼らも納得してくれるはずですから」
彼女は茗荷の言葉を聞いて、満足そうに笑った。
「そう。ならいいわ。行きなさい、茗荷」




