地の利を得た人
マイルズが結界を背にして戦い始めたのと同じ頃。セムトは敵に囲まれていた。
【毒の霧】
彼が目を閉じて、呪文を紡ぐ。紫色の煙が広がって、その煙を吸った人間たちが倒れていく。彼は何の感情もない瞳で、倒れた人々を見下ろした。霧の外から誰かが叫ぶ。
「この、化け物が……!」
その人間は、セムトに向かって刀を構えていた。震える手を抑えつけて、霧を吸い込まないように息を止めて、彼が霧の中に踏み込んでくる。セムトは笑っていた。
「足元、気をつけてね」
薔薇の蔦が地面を這う。斬りかかってきた男の足に、蔦が絡みつく。セムトは男を無視して、燃え盛る木々に目を向けた。
【生きている木には水の欠片が眠ってる】
木の幹が割れる。水が吹き出す。絶え間なく流れ出る水が、炎の勢いを弱めていく。セムトは目を細めた。
(炎があれば、僕に勝てると思ったのかな。そんなことは、ありえないのに)
人間を喰らう魔物が生息する森。神秘的な力が満ち溢れる場所。そして。
(この森は、僕のためにあるような場所だ)
セムトは地属性の魔術師だ。植物も動物も、地面の上で生活するものであれば、彼の魔術から逃れることは出来ない。彼は基本的に薔薇を扱うが、その気になれば森の木々を全て支配下におくこともできた。彼がそうしなかったのは単に気が乗らなかったからであり、1度森に入った人間が彼から逃れることは不可能だった。彼は数分で全てを片付けて、捕らえた人間を連れて村に戻った。
「セムト! だ、大丈夫……」
ケイが彼の足音に気づいて、振り返る。彼女は彼の背後に積まれている人の山を見て、半目になった。彼は彼女に抱きついて、幸せそうにした。
「ただいま、ケイ。心配してくれてありがとう」
「……でも、要らなかったでしょ。セムト、元気そうだし」
ケイは前に向き直ろうとした。セムトは彼女を離さなかった。
「そんなことないよ。僕、これでも疲れてるんだから。今は、このままで居させて」
彼女は抜け出すことを諦めて、彼の背に腕を回した。アマーリアは苦笑を浮かべて、2人を見ていた。やがて、セムトが満足して自主的にケイから離れる。それと同時に、疲れきったマイルズが戻ってきた。彼は他の3人が無事であることを確認して安心したのか、気を失って倒れ込んだ。セムトは彼を追いかけて結界にぶつかった魔物に歩み寄って、話しかけた。
「騒がせちゃったね。もう、怖い人は居なくなったよ」
魔物はセムトの言葉を聞いて、大人しくなった。そして身を翻して、去っていった。




