戦場
魔の森に火の手が回っていく。木が燃える音。枝が落ちる音。火花が弾ける音。それらに混じって、人々の怒号が聞こえてくる。村を囲んだ人数は15000人。1つの村を攻め落とすには、十分すぎるほどの兵力だった。結界は永遠に存在する物ではない。術者の力が弱まれば消えるものだ。アマーリアが力を失えば、軍勢はその瞬間に村に入り込むことができる。村は制圧されて、忍者たちは開放される。彼らは勝ちを確信していた。彼らの予測は正しいものだった。計算外のことがあるとしたら、1つだけ。そこは人が立ち入ることを許されない、魔物たちが住む森だった。
(右に2人、左に4人。囲まれたな。まあ、そうなるとは思っていたが)
マイルズは戦場を知っている。それは彼がアマーリアと旅する中で、何度も見た景色だった。彼の真横に立った人間が、彼に向かって刀を振り下ろす。彼はそれを紙一重で避けて、真横にいた人物を殴って気絶させた。彼は人を殺さないように手加減している。この世界では、人間が蘇生することはないと知っているから。
(戦争は数だ。この世界でも、それは変わらねえ。俺がどんなに奮戦しても、数で押され続けたら勝てねえ。普通なら)
マイルズは魔の森に生きる人間以外の生き物のことを知っている。草木を燃やせば、煙が立ち上る。煙を見れば、森に生息する魔物たちが集まってくる。彼はその事に気づいていた。彼が気絶させた人間を縛って、結界の中に放り込む。それと同時に、燃える木々の隙間から、人間よりも大きな魔物が姿を見せた。ヤギの角と狼の牙を持つ、2足歩行の魔物。それを見た人間たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。マイルズは逃げた人間を追わなかった。
(運が良ければ森から出られる。運が悪ければ魔物に食べられる。ここはそういう場所だ)
彼は思考を巡らせながら、周囲を見た。魔物と戦おうとしている人間がいる。マイルズは彼らの動きを注意深く見守った。
(奴らが勝てるならそれでいい。負けそうなら、ぶん殴って村に連れていくだけだ)
炎に巻かれた枝が落ちる。木々が折れる。魔物の爪が振るわれて、人間たちが倒れていく。マイルズは倒れた人間を村に運び込んでいった。
「こっちは終わったよ」
マイルズが人間を背負って移動している途中で、炎の中から声が聞こえてきた。セムトの声だ。マイルズはその声を無視した。
(知り合いに似せた声を出して、人間を誘う魔物だ。本当にあっちが片付いたんなら、アイツは俺のところじゃなくて、ケイのところに帰っていくはずだからな)
「終わったよ。こっちに来なよ。ねえ……」
魔物の声は何度か聞こえてきたが、マイルズが反応しないことに気づいて消えた。彼は魔物の攻撃を避けながら、重軽傷者を結界内に入れていった。戦争はとっくに終わっている。彼は周囲に生きている人間が居ないことを確認してから、村に戻った。




