炎
それは茗荷と風鈴が家に籠もって話していたのと同じ時間に起きた出来事。食器を片付けたマイルズが戻ってくる。何かが破裂するような轟音が森に響き渡る。木々が根本から折れて倒れていく。忍者たちが音に驚いて、家から出てきた。アマーリアが杖を取り出す。
【絡め取れ天の網】
光の糸が忍者たちの体に巻き付く。
「アマーリアさん?!」
ケイが叫ぶ。アマーリアは穏やかな声で言った。
「耳をすまして、よく聞いて。今ここに攻めてきたのは、クロトビの人たちよ」
ケイは目を閉じて、耳から入ってくる音に意識を集中させた。人々が走る靴の音。木や草が燃えて割れる音。それらに混じって、鬨の声が聞こえてくる。
(『幻想大戦』は他の誰かと競い合って、より強くなることを目指すゲームだ。この世界では国同士の大規模な戦争も、日常的なことなんだ。……ボクはそれを、知っているはずなのに。足が、動かない)
立ち止まっているケイの肩に、誰かが手を置く。ケイはゆっくりと顔を上げた。
「任せとけ」
マイルズがそう言って笑った。彼は声が聞こえた方に向かって進んでいく。クロトビの軍隊が村に攻め入ろうとした。
【入らないで】
アマーリアが忍者たちを捕らえたままで、呪文を唱える。ドーム状の透明な壁が村を包んだ。マイルズが村の周囲を囲む大軍を見ながら、セムトに声をかけた。
「お前はあっち、俺はこっちだ。ケイを守りたいんだろ?」
セムトは無言で頷いて、反対方向に駆けていった。マイルズはそれを見送って、前に向かって走った。
「待って……!」
ケイの言葉は届かない。2人の男は振り返らない。
「心配しなくていいわ。彼らの方が、強いもの」
アマーリアが微笑む。ケイは青ざめた表情で、口を開いた。
「……ボクには、何も出来ないんですね。こんな時に……」
「ケイちゃんは何もしなくてもいいのよ」
「でも、2人がボクを守るために戦ってくれてるんです。アマーリアさんだって、結界を張ってくれてるじゃないですか。ボクが職業を変えていたら、少しは皆の役に立てたのに」
「……そうかしら。アタシはケイちゃんが農民で良かったと思うけど」
アマーリアは笑みを深めた。ケイは目を見開いた。
「どうして、ですか?」
「だって、これはゲームじゃないもの。対人戦は楽じゃないのよ。少し手が滑っただけで人を殺してしまう可能性もあるんだから。それにね、ケイちゃん。戦う力が無ければ、相手が油断してくれる。戦場から逃げることも、簡単になるわ。もし私たちが負けて殺されることがあっても、ケイちゃんだけは逃げ延びて、どこか遠くで生きることができる。それは私にとって、他の何よりも嬉しいことだわ」
アマーリアは真顔で告げた。ケイは言葉を失った。




