水風呂
「ねぇ、ケイ。お腹、空いてない?」
セムトがケイの手を引いて、自分の方に引き寄せる。
「僕、ケイの手料理が食べたいな。何か作ってよ」
「えー……料理とか、苦手なんだけど」
「何でもいいよ。僕は毒使いだから、食べられない物でも消化できるし」
「いや、流石に食べられない物は作らないけど……」
ケイは悩みながら、マイルズを見た。
「その……ここに食料ってありますか?」
「あるぜ。だが、お前は食事の前に水を浴びて来た方がいいだろうな」
その言葉で、ケイは自分の手足と顔が土で汚れていることを思い出した。
「あ、そうですね。どこか、水浴びできそうな場所はありますか?」
「向こうに作ってあるぜ」
ケイはマイルズが指差した方に向かって歩き出した。マイルズは彼女の後を追おうとしたセムトを引き止めた。
「嫌がられるから止めとけ」
「だけど、ケイを1人で村の外に出す方が危ないし……」
「心配すんな。俺とユズで、泉の水を村の中まで引き込んである。水浴びをするだけなら、遠くに行く必要はねえよ」
ケイは背後で交わされる会話には構わずに進んだ。水が流れる音が聞こえる。彼女はその音がどこから聞こえているのか、耳を澄まして調べた。少しして、彼女は村の外から建物の中まで、細い水路が繋がっている家を見つけた。家の中には小さな棚が取り付けられており、その上に木製の桶が置かれている。家の奥は木材が取り除かれて、大きな石で埋められている。石の窪みに水が流れ込んで、小さな池を作っていた。
「お風呂を再現しようとしたのかな……?」
石鹸はない。水も冷たい。
「でも、贅沢は言えないよね」
ケイは服を脱いで棚に置いて、木桶を取った。池の水を汲んで、体についた泥を洗い流す。彼女はそれを何度か繰り返して、体を綺麗にした。そして木桶を片付けて、置いておいた服を身に着けて外に出た。
「ケイ!」
外で待っていたセムトは、ケイを見た瞬間に顔を輝かせて駆け寄った。彼は彼女に抱きついて、低い声で囁いた。
「……寒かったの?」
その言葉で、ケイは自分の体温が下がっていることに気づいた。
「このくらい、大丈夫だよ。まだお昼だし……」
「嘘だ」
セムトがケイを強く抱きしめる。
「だって、こんなに冷たいもの。やっぱり一緒に行けば良かった。こんな風になるんだって知ってたら、君を1人にすることなんてなかったのに」
彼は本気でケイのことを案じていた。ケイは彼の腕の中に閉じ込められた状態で、彼の肩越しに前を見た。マイルズが巻物を持って、遠くから歩いてきていた。




