種まき
家の外に出たマイルズは、倉庫から大きなツボを取り出してきた。白い陶製のツボには、金色の模様が描かれている。ツボの中身は半分ほど、土で埋まっていた。ケイは土の上に球状の根を乗せた。セムトが花に触れて呪文を唱える。
【お願い僕の花ケイのために咲いて】
2輪の薔薇の茎が合わさって、一体となる。ツボの中に入っている根が絡み合って、伸びていくのが見えた。セムトが家の扉の前に置いてあったスコップを取って、土を掬ってツボに入れた。大きなツボはあっという間に土で満たされた。ケイが薔薇から手を離す。花は傾かず、揺らがず、天に向かって真っ直ぐ伸びていた。薔薇の芳香が、風に乗ってケイに届く。
「……わあ、すごい」
彼女が目を細める。セムトは満足げに頷いた。
「でしょ? この花は君にあげるから、大事に育ててね」
2人の話が途切れたのを見計らって、マイルズがケイに声をかけた。
「ユズが渡した種は、まだ持ってるか? 持ってるなら好きなところに蒔いておけよ」
ケイは服のポケットに入れていた種の袋を取り出して、声が聞こえた方を見た。家の左側にある土地に耕された跡があり、マイルズが大きなスコップを両手で持った状態でその場に立っている。
「あ、すみません。全部やってもらっちゃって……」
「気にすんな。体を動かすのは好きだしな、このくらいのことは朝飯前だ」
彼は汗もかいていないし、息も上がっていない。その様子を見たことで、ケイは確信した。彼は無理をしているわけではない。マイルズにとって、この一帯を耕すということは本当に簡単なことだったのだろう。それを理解したケイは、彼に向かって頭を下げた。
「……ありがとうございます」
彼は何も言わずに、耕し終わった畑を指し示した。ケイはそれを、畑作りを進めていいという意味だと解釈した。セムトが渡してきたスコップを受け取って、土地の端に座りこむ。スコップで土を混ぜて、小さな窪みを作る。そこに種を1つ置いて、その上に軽く土を被せる。スコップの背で軽く均して、種の上に乗っている土を薄く伸ばす。少し間を空けて、次の種を植えるためのスペースを作る。それを繰り返して全ての種を植えた彼女は、満足した様子で立ち上がった。
「畑作りは終わったから、後は水をやるだけだね。……この世界にジョウロってあるのかな。スコップはあったみたいだけど」
「一応あるぜ」
マイルズがケイの疑問に答えて、金属製のジョウロを渡す。それは大きめの円柱に、長い注ぎ口と取っ手がついた物だった。中には水が入っており、少し重い。ケイは取っ手を持って、注ぎ口を地面に向けて傾けた。ジョウロの中に入っていた水が注ぎ口から流れ出て、地面に向かって落ちていく。彼女は畑に水を撒いた後に、残った水をツボに注いだ。




