後片付け
「さて、この花はどうしようかしら」
アマーリアは疲労を隠して薔薇を持ち上げた。セムトがゆったりとした動きでケイから離れて、アマーリアに近づく。彼は彼女から薔薇を受け取って、感心したような声を出した。
「凄いね。《花》が生きたまま抜けることがあるなんて、思わなかった」
彼は子供のような笑顔で、薔薇の根を球状に纏めて、ケイに手渡した。
「この花はケイにあげるよ。畑、作ってるでしょ?」
ケイは何と返していいか分からなかった。
(花を育てるのは農作業とは言わないような気がするけど……。でも、人に植えるよりはいいような気もするし。どうしよう)
ケイは受け取った薔薇を見た。それは色が少し派手だったが、花も茎も根の形も普通で、人の体に生えていたとは思えないほどだった。
(アマーリアさんが取り除くのを見てなかったら、絶対警戒せずに受け取ってたな……)
「ケイちゃん、ちょっといいかしら?」
花を見つめて悩んでいるケイに、アマーリアが声をかける。ケイが顔をあげると、アマーリアは外に向かう方向を指して言った。
「外の倉庫に白いツボがあるから、花を植えるならそれを使うといいわ」
「なら、俺がツボに土を入れてきてやるよ」
マイルズが家から出ていく。ケイは薔薇を持ったまま、彼を追いかけた。少し遅れて、セムトも外に向かって歩いていった。アマーリアは3人を見送って、小声で茗荷に話しかけた。
「アナタ、もうとっくに起きているんでしょう?」
「……お気づきでしたか」
茗荷が目を開ける。アマーリアは苦笑を浮かべた。
「アナタの意識を奪ったのは、セムトが植え付けた《花》だもの。その支配がなくなれば、目が覚めるのは当たり前よ」
「成る程、道理ではありますな」
彼が懐から短剣を取り出す。アマーリアは動じなかった。
【絡め取れ天の網】
茗荷が自分の心臓に向かって突き立てようとした短剣を、光の糸が巻き取る。
「何故……」
茗荷は糸に絡まったまま、アマーリアの方を見た。彼女は微笑んでいたが、その目は全く笑っていなかった。
「当たり前でしょ。アナタが死んだらケイちゃんが悲しむもの」
「忍務が失敗した者は死ぬ。私はあの男に無理矢理に動かされていただけの、死体も同然の存在なのです。死体は朽ちて土に帰るのが定めでしょう」
「ええ、そうね。アタシもアナタに生きててほしいなんて言わないし、思わない。だけど、ケイちゃんは気にするのよ。アナタの信念も意思も関係ないの。アタシはケイちゃんを傷つけたくないだけ。分かる?」
茗荷は無言で短剣を手放した。剣が床に落ちて、硬質な音が鳴る。アマーリアはその剣を拾って、光の糸を断ち切った。




