畑づくり
強風が吹いて木々の枝が揺れる。マイルズが近くの家の倉庫に入って、大小2種類のスコップを探し出してきた。彼はケイに小さい方のスコップを渡して口を開いた。
「ペタシテスの種を蒔くんなら、この辺りがいいだろうな」
彼は片手に持ったスコップで、家の側に四角い枠を描いた。
「この土地はあまり人の手が入ってねえから、そのままだと耕すのも難しいだろ。俺が先に土を混ぜておいてやるよ」
マイルズがスコップを大地に突き刺して、土を掘り返した。ケイは呆気にとられた様子で、それを見ていた。風が強くなる。草木が揺れ動く音が大きくなる。その音に紛れるようにして、何かの足音が聞こえてきた。ケイが固まる。マイルズがその事に気づいて、スコップを放り出して彼女を庇うように前に立った。
「心配ないよ。彼は僕の《花》だから」
セムトが笑いながら言った。茂みから1人の人間が飛び出してくる。その人は黒覆面に黒服を着た男だった。彼は他の者に目もくれず、セムトの前に進み出て膝を折った。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「そんなことないよ。茗荷が1番早かったから。流石だね」
「この程度のこと、造作もありません。主に呼ばれれば、何時如何なる時であっても駆けつける。それが忍びの在り方にございます」
呆然としていたケイが、声を上げる。
「花って、その人は人間でしょ……? おかしいよ、そんなの……!」
茗荷と呼ばれた男が、ケイに鋭い視線を向ける。セムトが彼の肩を叩いた。
「茗荷。あの子は僕の宝物だから、大事にしてね」
「分かりました」
2人のやり取りを見ていたケイは、どうしたら良いのか分からなくなってアマーリアの方に視線を向けた。アマーリアがケイに歩み寄って、彼女の背に腕を回す。
「ケイちゃんがどうしてもっていうなら、アタシが《花》を取り除いてあげるわ。彼もケイちゃんのお願いなら聞いてくれるでしょうから」
「そうだね。ケイがそうしたいなら、いいよ」
アマーリアの言葉を聞いたセムトは、穏やかな声で告げた。ケイは何も言えなかった。
(人間を花にするなんて間違ってる。そう思うのに)
茗荷が戸惑ったような表情でケイの方を見ている。ケイは考え込んだ。
(それはそうだよね。あの人はセムトに花にされてから、ずっとそれが当たり前だったんだ。あの人を元に戻してほしいっていうのはボクの気持ちであって、あの人の望みとは違うのかもしれない。ボクは、なんて返せばいいんだろう)
悩んでいるケイに、マイルズが話しかけた。
「別に今すぐ決めなくてもいいだろ。そいつとは初対面だしな。そいつがセムトから離れることはねえだろうから、お前がそうしたいと思ったときにユズに頼め」
「……はい。そうします。ありがとうございます、マイルズさん」
それは結論の先送りでしかない。分かっていても、ケイはその言葉に頷くことしかできなかった。




