作業開始
ケイは周囲を見渡した。村に生えていた伸び放題の草が抜けたことで、建物の形がよく見えるようになっている。そこはケイが暮らしていた村よりも面積が狭かった。村の外側に建っている家がいくつか潰れている。それはまるで、上から大きな物が落ちてきたかのような潰れ方だった。その辺りの地面には大きな丸いくぼみがあり、よく見れば木々の枝にも折れた跡が残っている。1度折れてから長い年月が経って再生し、新しい枝が伸びてきたのだと、ケイは推測した。
(何と戦ったんだろう。モンスターかな。村の建物が全部壊されてないってことは、撃退できたってことなんだろうけど……。同じようなことが、また起きる可能性はあるよね。その時ボクは、どうしたらいいんだろう)
『幻想大戦』に存在する職業の中には人外もいるし、召喚士もいる。プレイヤーが『幻想大戦』のシステムで保護されていた前世では、人に使役されていない魔物が人間を襲うことはなかった。けれどこれは現実であり、魔物は人間と同じようにこの世界で生きているのだから、人を襲うこともあるはずだ。ケイは不安な気持ちになった。
「……ケイ? どうしたの、何かあった?」
セムトがケイの顔を覗きこむ。
「あ、セムト……ええと、その……。この家、なんだけど」
「ああ、これ? 壊れてるから使えなさそうだね」
「そうじゃなくて、何かに壊されてるでしょ? ボクたちより大きな魔物がいるってことだよ。怖くないの?」
「怖がる必要はないと思うよ。この村には結界が張られているから、魔物は近寄らないし。もし結界を越えてくる魔物がいても、僕がケイを守ってあげる。だからケイは何も心配しなくていいよ」
ケイは俯いた。セムトが彼女の頭を撫でる。アマーリアがケイに近づいて、話しかけた。
「ねえケイちゃん、どこに畑を作るの?」
ケイが顔を上げる。
「あ、そうですね。家に近い方がいいと思うんですけど……」
彼女は空を見た。太陽の光が枝に遮られて、朝だというのに周囲は薄暗い。
「よく考えたら、ここって日当たりが悪いから、作物は育ちにくいような気がするんですが」
「そうでもないわよ。日が当たらなくても育つ植物はあるから、最初はそういうものを育てればいいの」
アマーリアが荷物の中から小さな袋を取り出して、ケイに渡した。ケイは袋を逆さにして、中に入っているものを取り出した。それは小さな黒い種だった。
「これは……?」
「この森のあちこちに生えている、食べられる野草の種よ。生育環境が合っているから、育ちやすいと思うわ」
「そうなんですね。……ありがとうございます、アマーリアさん。育ててみます」
ケイは種を握って笑った。少し離れた場所で、マイルズが彼女の様子を微笑ましそうに見ていた。




