夜中
夜は魔物の時間だ。森に生息する人間以外の生物が、獲物を求めて移動する。そこは、ただの人間が生きていける環境ではない。
「……なんて、ちょっと怖がらせすぎちゃったかしら。この村の周囲には結界を張ってあるから大丈夫よ」
アマーリアはそう言って微笑んだ。ケイは彼女の言葉を信じて、寝袋に入って目を閉じた。少しして、ケイの寝息が聞こえてくる。
「ねえ、ここに人を呼んでもいいかな?」
ケイが寝入ったのを見て、セムトがアマーリアに問いかけた。アマーリアは冷たい眼差しをセムトに向けた。
「呼ぶのは、アナタの《花》かしら?」
その言葉を聞いたセムトは、悪びれもせずに口を開いた。
「知ってるの? うん、そうだよ。僕を殺すためにクロトビから来た人たち。殺すのに失敗して死のうとしたから、止めたんだ。放っておいたら勝手に死んじゃうから、《種》を植えて僕の《花》にした。ケイにも、紹介しようと思ったんだけど……」
「クロトビの忍者なら、失敗するってことがどういうことかは分かってんだろ。なのに《花》にして本人の意思を奪ってまで生かすのは、趣味が悪いと思うぜ」
マイルズが口を挟む。セムトは首を傾げた。
「そうかな。死ぬのは悲しいことだし、家に帰れないのは辛いことだと思うけど」
「《花》になって戻っても殺されるだけだから戻れねえだろ。そいつらも、そう言わなかったか?」
「言ったけど……でも、生きていればいつか帰れるときも来るんじゃない? 僕と違って、彼らには帰る家もあるんだし」
2人の会話は平行線を辿っている。アマーリアはため息をついて、間に入った。
「はいはい、そこまで。あまり騒ぐとケイちゃんが起きちゃうわよ」
男たちは会話を止めてアマーリアの方を見た。アマーリアはセムトに向かって話しかけた。
「《花》を呼びたいなら好きにしていいわ。この村には形が残っている家が多いから、その人たちも暮らしやすいんじゃないかしら」
「ありがとう。それじゃ、呼ぶね」
セムトが柱に寄りかかって、目を閉じた。彼の手の中に紫色の薔薇が出現する。
【君がいるべき場所、それは僕の隣だから】
薔薇の蕾が開いていく。花びらが床に落ちて、溶けるように消えていく。
「ここにおいで」
セムトが呟く。薔薇の蔦が地面を這って、家の外まで伸びていった。彼は大きく息を吐いて、2人に向かって質問を投げかけた。
「僕はこのままここで寝るけど、君たちはどうするの?」
「アタシはケイちゃんの隣で寝るわ。同性の特権よ」
アマーリアがケイの隣で横になる。マイルズは家の入り口に立って言った。
「俺は見張り番だ」
セムトは2人の言葉に納得して、座った状態のまま、夢の世界に旅立った。




