憧れ
「……で、それはそれとして……」
アマーリアがマイルズにからかいを含んだ視線を向ける。入り口に立っていたマイルズがため息を吐いた。
「なんだよ。俺は協力しねえぞ。ガキを守りてえなら、お前が1人で何とかしろ」
「随分とひどいことを言うのね。同じ転生者同士、仲良くすればいいじゃない」
ケイは顔を上げて、アマーリアとマイルズを交互に見た。
「そう言えば、マイルズさんはアマーリアさんのお友達なんですよね。じゃあ、夜銘タロウさんにも会ったことがあるんですか?」
マイルズはその名前を聞いた瞬間に、驚きを顔に浮かべてケイに近づこうとした。急に動こうとしたことで体勢が崩れて、彼は大きな物音を立てて盛大に転倒した。
「だ、大丈夫ですか……?!」
ケイは慌てて彼に駆け寄った。マイルズは彼女が助け起こそうとして伸ばした手を掴んで、引き寄せた。ケイはその力に逆らえず、倒れた彼に覆い被さるような格好になった。
「……お前」
マイルズはケイの手首を掴んだ状態で、自分の手に力を込めた。ケイは痛みに顔を歪めた。
「い、いた、痛いです……!」
アマーリアがマイルズの頭を叩く。
「アンタね。ちゃんと考えて動きなさいな。ケイちゃんに嫌われても良いの?」
マイルズの手から力が抜ける。アマーリアはケイを回収して、笑いかけた。
「痛い思いをさせちゃったわね。大丈夫だった?」
ケイは戸惑った様子で、マイルズのことを気にしながら口を開いた。
「ボクは平気です。でも、マイルズさんは……夜銘さんのことも嫌いだったんですか? 夜銘さんは、誰かに嫌われるような人じゃないと思いますけど……」
「あらあら。ケイちゃんは本当に、夜銘のことが好きだったのね」
アマーリアは楽しそうに笑っている。ケイは頬を赤らめた。
「それは……味方の立ち回りが下手でも、夜銘さんは酷い言葉を使ったりしなくて。ちょっとしたことでも褒めてくれて……だから、嬉しかったんです」
「アイツの配信は、いつ始めても同接3人とかだったけど?」
「人数は関係ないと思います」
ケイは胸を張って言い切った。
「ボクは夜銘タロウさんの配信が大好きでした。同接も登録者数も、もっと上の人は他にいくらでもいましたけど……それでもボクにとっては、夜銘さんとゆず茶さんのやり取りを聞いている時間が何よりも大切だったんです」
アマーリアはケイの話を聞きながら、横目でマイルズを見た。マイルズは微動だにせず、ケイを見つめている。
(素直じゃないわね、アイツは)
アマーリアは知っている。彼がマイルズというプレイヤー名を使っていたのは昔の話だ。トップ層のプレイヤーだったセムトと出会って、彼は対抗心を抱いた。直接戦っても勝てなかったことから、彼は別のやり方で勝とうとした。彼は課金システムを使って名前を変更し、ゲーム配信を始めた。変更後の名前は夜銘タロウ。ケイが憧れている人物であった。




