廃村
マイルズが立ち上がって、セムトから距離を取る。ケイがアマーリアのもとに走りよる。セムトがそれを羨ましそうに見ていた。
「ひとまず移動しましょ。この近くに放棄された村があるの。家も壊れかけだけど屋根と壁は残ってるから、ここよりは落ち着けると思うわ」
アマーリアはそう言って、ケイの手を引いて歩きだした。2人はそのまま、広場から出て森の中へ入っていく。2人から少し距離を取って、セムトが後からついていった。最後尾で、マイルズが不機嫌そうな顔をしていた。右も左も同じ風景が続く森の中を、アマーリアは迷わず進む。ケイは彼女の顔を見上げた。
「魔の森にも村があったんですね。プレイヤーが村を置ける場所じゃなかったと思うんですけど……」
「そうなのよね。アタシも見つけた時は驚いたわ」
「放棄されたってことは、昔は人が住んでたってことですよね。その人たちは、どこに行ったんでしょうか」
「それは……アタシには分からないわ」
アマーリアは目を伏せた。ケイはそれ以上のことは聞けない気がして、口を閉じた。草木に隠れて、板のようなものが見え始める。ケイはそれが村の周囲を囲む柵であることを知っていた。柵の向こうに、剥がれて落ちかけた屋根が見える。丈の長い草に覆われた家の破片を横目に進んだ先に、屋根と壁が辛うじて残っている古い家が建っていた。アマーリアはその家の前で立ち止まる。彼女は傾いた扉を開けて、家の中に入った。
【此処は聖地なれば子が暮らせる場所となれ】
アマーリアが杖を振る。室内に積もっていた埃が消えて、家の中が綺麗になった。ケイは片付いた部屋の隅に荷物を置いて、その隣に座った。アマーリアが彼女の側に座って、家に入ってきた男たちに杖を向ける。
「アンタたちは、そこから一歩も動かないで」
「……酷いなあ」
セムトが笑って、家から出ていった。マイルズがそれを見送って、腕を組む。
「放っておいていいのか? あの野郎のことだ、この辺りの土地に《種》を蒔くかもしれねえぞ」
「この村一帯は聖別してあるから、《種》が根付くことは無いわ。村の外には植えられると思うから、周囲を薔薇に囲まれることにはなるかもしれないけど……でも、それは仕方のないことよ。彼は地属性の魔術師なんだから」
2人の会話を聞いたケイは、不思議そうな顔をした。
「《種》って何のことですか? ゲームにはそんな能力、無かったと思いますけど」
「そうね。アタシも、こっちに来るまでそんな能力があるなんて知らなかったわ。だけどこれは、地属性の魔術師が持つ力の中では1番危険なの。《種》は人間にも植えることができるから」
ケイは言葉を失った。アマーリアは彼女の頭を撫でて、笑いかけた。
「大丈夫よ。アタシがケイちゃんを守ってあげるから」
ケイはその言葉を信じて、頷くことしか出来なかった。




