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トイレに行きたい

作者: haruto

 皆さんはトイレに行きたくても行けなくなった状態に陥ったことはないだろうか?

 

 私はある。

 今がまさしくそうだ。

 私は今バスに乗っている。


 この状況に陥り毎回思うのだが、なぜ人間はこの愚かしい状況に何度も陥ってしまうのだろうか?


 時刻にして17:49のこと、私は緑茶をガブ飲みしていた。

 結構な肉体労働後で大変喉が渇いていたのだ。

 コンビニで購入した600mLのペットボトルを一気飲みした。

 そのタイミングでちょうど定時(18:00)になり帰宅の準備を始めた。

 新卒なのでまだ定時帰りだ。

 同期入社の私の同僚達も帰宅の準備を始めている。


 帰り支度が終わり、上司らに挨拶をし、会社を出たその時だった。

私に強い尿意が襲って来たのは。


 もちろんさっきの緑茶が原因なのは明らかで、結局は緑茶を飲まなければ良かったという話で、先程の疑問も解消され、もうこれ以上話を続ける意味なんて無くなったわけだが、まあ、もうしばらくは聞いてくれると助かる。

 愚痴は理解してもらうことじゃなく、話すこと自体が目的なのだから。


 これはトイレに行かないとまずい。まずそう直感した。

 会社から帰宅に利用しているバス停にいくまでの時間(10分)、そこからバスを待つ時間(5分)、バスから自宅最寄りのバス停までいく時間(40分)、そこから自宅まで歩く時間(5分)、足し合わせ約1時間。

 これが私が尿意を我慢しなくてはならない時間だ。


 そして、この尿意で1時間我慢することあまりに危険だ。

 私には分かる。

 私の経験が告げている。

 小学校の遠足時にやらかした私の経験が告げている。


 まあ、ここで引き返し、社内のトイレを使えば問題はなかった。

 私だってバカではない。

 もちろんそうしようとした。

 そうしようとしたんだ。


 そうしようとしたその時にバッタリ出くわしたのが、私と同期の金木くんだった。

 金木くんは「お疲れ様です」と言い、その後悪魔のような一言を私に送った。


「一緒に帰りましょう」


 そして私たちは社内に戻ることなく、現在バスに揺られている。


 なぜ金木くんに一言「トイレに寄ってもいいかな?」と言えなかったのだろう。

 先週入社したタイミングで出会い、まだ仲が良いとまでは言えないぐらいの金木くんとの関係だが、別にそれぐらいの要求ならきっと快く受け入れてくれただろうに。

 中途半端な関係の人ほど、こういった要求を伝えるハードルが上がるのはなぜだろうか…。


 ここで私だけトイレだけ行くと、金木くんが先に行ってしまうかもしれない。

 そうなると、次に金木くんと親睦を深められる機会がいつになるのかわからない。

 仕事場の環境を良くしたりや業務効率を上げる為には、こういった機械を大事にしなくてはと思ってしまう。 

 そう考えてしまうと、この程度なら我慢したほうが…と思ってしまう。

 実際は全然この程度ではないのだが…。 


 それに金木くんがトイレに付き合ってくれたとしても、それはそれで罪悪感がこみあげてしまう。

 私は人を待たせてしまっている罪悪感が大嫌いなのだ。


 結局、私の膀胱に頑張ってもらう以外に道はなかったようだ。


「そういえば、いつも緑茶を飲んでますけどお好きなんですか?」

「そうなんでよ。金木さんは好きな飲み物ってあるんですか?」

「僕はコーヒーですかね。でも最近は控えているんですよ」

「どうして?夜眠れなくなったとか?」

「というよりは少しトラウマになってしまって。というのも、卒業旅行のとき夜行バスを利用したんですけど、バスの中で調子に乗ってコーヒーを沢山飲んでいたらもの凄く尿意が襲って来て。運転手さんに近くにパーキングエリアよって欲しいとお願いしたですけど、ちょうど近場になかったので」

「もしかして・・・?」

「流石にそこまでは。でも軽いトラウマになるぐらい尿意と戦う羽目になりましたね」

「そういえばコーヒーを飲むと何でトイレ行きたくなるんですかね?」

「カフェインが原因らしいですよ。利尿作用があるそうです」

「……そうなんだ」

「あ、僕ここなんで、それではお疲れ様です」

「……お疲れ様〜」

 そして金木くんはバスに降りて行った。

 金木くんが私より先にトイレに行けるんだな。

 そう思うと、謎の怒りが込み上げてきた。


 まあ、そんなことを考えてもしょうがない。

 時間が経った分、バスに乗る前より当然尿意は高まっている。

 私と尿意の戦いはここからが本番である。

 

 それにしても、これほどまでに尿意・便意を我慢するのは人間ぐらいなものではないか?


 動物にはトイレという概念はない。

 ならば当然尿意や便意を我慢するということもない。場所を選ぶ必要がないからだ。

 我慢するのは、場所を選ぶ、つまりはトイレを使う人間のみだ。

 糞尿を垂れ流すことは動物として自然な欲求だ。

 よく食欲・性欲・睡眠欲が人間の三代欲求なんて言われるけど、糞尿を出したいというのは三代欲求に並ぶレベルの欲求だと思う。いや、それ以上の欲ともいえる。

 一日食わないことや24時間起きていることはできても、一日1回も尿を出さないなんてことがあるだろうか?頑張れば可能かもしれないが、三大欲求を我慢するよりもリスクが高いだろう。

 かの高明な天文学者であるティコ・ブラーエはトイレを我慢しすぎたことがで膀胱がパンパンとなり、それが原因で上手く排尿できなくなり死亡したとされている。


 えっ、つまり、もしかすると私は死んでしまうのか?このままだと?

 いや、流石に。ティコ・ブラーエはあくまで極端な例であって…。

 それに、もう少しでバスも到着するはず、

 

「次は〇〇に停車します」


 全然時間経っていなかった。

 私のバス停はあと6つも先ではないか。

 もう我慢できない。


 私は停車ボタンを押した。

 バスが停車する直前に立ち上がり、やや小走り気味に出口に向かい、乱雑にカードをタッチして下車した。


 下車したはよいが、これは一種の賭けである。

 なぜなら、下車したここら周辺の地理を私は理解していない。

 つまり、トイレが近くにあるかわかっていないのである。

 

 いっそ物陰に隠れて、いや、流石にそれは。

 立ちションという選択しもあるが…。

 いや、スーツ姿の社会人がやるには羞恥心が…。

 なら、スーツを脱げば、ってバカヤローそれは別の問題が発生するだろ。


 私はとにかく走った。

 走ることで交感神経を刺激すると、尿意は消えると聞いたことがある。

 いや、ないかもしれない。  

 いやいや、そんなことはどうでもいい。

 とにかくトイレを探すのだ。

 走れば歩くより遭遇する可能性は単純高くなる。

 とにかく走るのだ。

 

 すると意外にも早くコンビニが見つかり、私は文字通りその中へと駆け込んだ。

 入口が手動で良かった。

 自動ドアなら破壊していたかもしれない。


 奥にあるトイレを発見。

 一直線に向かい、ドアを開ける。

 念願のトイレであった。

 私はチャックを下ろしにかかる。その時だった。

 チャクに食い込んで上手く開けることができない。

 まさかさっき走った際に壊れたのか?

 汗が原因で手が滑りやすいことをあり余計やりづらい。

 クソ、ここまで来て…!

 その時、もう限界を迎えていた尿意に、さらなる強い尿意の波が襲いかかる。

 運動後は交感神経が抑制されると同時に副交感神経が促進され尿意が高まるという話を思い出す。

 いや、ないかもしれない。  

 いやいや、だからそんなことはどうでもいい。

 やばいのはこれまで以上に強い尿意が土壇場でやってきたということだ。


 いや、チャクを下さなくてもまだズボン自体を下ろせば!

 くそ、ベルトを閉めたままじゃ下ろせない。

 落ち着け、落ち着いてベルトを外すんだ。

 なに、冷静なれば分けないだといつもやっていることだ。

 よしベルトを外した。

 ここから一気に、くそ!

 チャクを閉めたままじゃ下ろしづらい。

 やはりチャックを下ろすのは必須なのか?

 いや、お腹を凹ませれば降ろせる。

 あっ、。


 私は腹筋に力を入れた瞬間に自分の過ちに気づいた。

 そして思い出した。

 肉体が尿を出す体の仕組みを。

 端的に言うと、腹圧を高めた圧力で放出すると言うものだ。


 「……………………………………………………」


 なあに、スーツのクリーニングをするタイミングが早くなっただけだ。

 私は目からも液体を垂れ流しながらそう思った。


 それから私は緑茶どころか水を飲むことすらトラウマになり、仕事中に脱水症状を起こすのだが、それはまた別のお話。


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