理不尽の塊【プロローグのみ】
プロローグのみです。
お約束な陰気少年が、特殊な能力を得る話。
の、得た所まで。
ボクはヤーグギ・フリーマン。
地球にある資源を採取し尽くして、それでも宇宙に移住できずに終わった世界で、神と名乗る人の慈悲で資源を採取できるダンジョンが地球上に現れた世界。
そこに住んでいる、しがない子供。
地球に住む人間は各地に現れた、ボクらがエネミーと呼んでいる危険な存在が湧いて出てくる危険なダンジョンで、そのエネミーと戦って得た資源でなんとか生きている。
ダンジョンから得られる資源で、大昔の記録から〈ショーワ〉と呼ばれる時代の初期頃と似た文化レベルで生きているボク達。
ショーワってのが何時頃なのか良く分からないけど、もっと未来は、もっと便利な世の中だったと学校で習った。
そんな時代が早く来ないかなぁ。
ところで今日である4月1日は、ボク達前年度に満15歳を迎えている人間にとっては特別な日。
地域別でそれぞれの特定の場所に集まって、ダンジョンに関わるためのチカラを受け取る日。
ダンジョンからは食べ物の種や苗からお肉から、道具の原料から建材から。
ありとあらゆるモノが採れる。
…………え? 種や苗を手に入れたら、新しい種や苗は育てた植物から採れる?
そんな都合のいいことは無いよ。 ダンジョンから出た種や苗は、一度実らせたら終わり。
果物とかの種は無いし、稲とかから採れた種籾は何をやっても芽が出なかった。
果物の木も半年位で木になって、果物が生って、2度と実は生らずに木材として伐る以外の使い道が無くなる。
野菜なんかはたった数日〜半年まで種類によってマチマチだから、うまく説明できない。
食べ物や薬になるとかの有用じゃない植物は、何もせずともそこらから生えてくる。
だから、有用な植物はダンジョンから以外は手に入らない。
こんなダンジョンに依存しないと生きていけない現代の人間にとって、チカラはとても大切なモノ。
戦闘を始めとして、ダンジョンへ挑むのに向いたチカラを得られたり。
ダンジョンへ挑んだ者が持ち帰ってきた資源を加工したり栽培したりして、生活や対ダンジョンに使えるものを生産するチカラを得たり。
ダンジョンの物をより、上手に使えるよう研究するのに向いたチカラを得たり。
得られたチカラに合わせて、それらを活用する為に勉強する学校を振り分けられる。
だから多少の体調不良でも今日は絶対に出席する。
大怪我やひどい病気の人も、意識が無くとも別室へ運び込んで参加させて、チカラを得させる。
それで目覚めてからどんなチカラだったかを確認して学校を振り分ける。
稀に参加しないで逃げ回る人も居るって聞く。
そんな人は一生に一度しかないこの機会を棒に振ってしまって、人権も認められなくて普通の生活を送れなくなるって怖い話もある。
だからどんな酷い状態でも無理を押して参加するってのが、常識。
ちなみにボクはそのチカラを得るのと同時に、もう一つ目的がある。
ボクは人に強く出られない性分で、それを内気でナニしても文句を言わないサンドバッグとして見られてしまった。
そんな人達と離れられるか見返せるチカラを得て、現状を打開したいのだ。
…………でもまあそんなに都合良く、凄いチカラを得られる訳がないだろうけどさぁ。 はぁ……。
〜〜〜〜〜〜
会場となる集会場に着いたけど、一目で分かるほど凄いことになっていた。
ここの集会場を利用する地域住民が全員集まっているんじゃないかってほどに、かおを知っている人達が集まってお祭り騒ぎになっている。
実際お祭り同然に扱われていて、地域で飲食店をしている人達なんかは集会場近辺に出店を出して、商売をしていたりする。
それだけ注目度の高いイベントであるのは間違いない。
生産職とかの職人も見に来てて、将来の弟子を捕まえられるかで目をギラギラさせてるし。
このチカラは遺伝とかそんなのは無さそうで、一族だからと同じチカラを得られるとは限らないっぽい。
だから店や技を継いでくれそうなのを必死に探しているんだとか。
…………おっと。 集会場周辺の雰囲気にあてられてないで、ダンジョン時代の職人達が腕を奮って建てた無駄に豪華な集会場に入らないと。
〜〜〜〜〜〜
挨拶に来た町長の言葉によると、実はこのチカラを得るイベントは、一人の人間として国民として人権を認めるイベントでも有るんだって言われた。
これで君達も立派な人間だ、おめでとう。
そう言い残して、町長は退席。
お偉方のお話が終わって次にする事を言われた時、会場は盛大にザワついた。
これから『神授室』に行って、チカラを得られると聞いたからだ。
そりゃあザワつくよね。 15歳16歳なんて武器持ってエネミーの攻撃をサッサッスルッと避けながら暴れまわるのは格好良い!
しかめっ面をしてスゴい武器を鍛冶で生み出しといて「ハンっ、俺もまだまだだな……」なんて言うのが格好良い!
超高性能な傷薬を創り出しといて「こんな物は通過点です」とかもっと未来を見てるのが格好良い!
なんて思っちゃう時期だし。
そんなのが出来るようになるチカラを得たい!
って唯一のチャンスな訳だし。
…………あ、一人一人順番に、町役場の職員さんに呼ばれて部屋へ入って行くんだ。 順番はいつ巡ってくるかなぁ。
〜〜〜〜〜〜
「ヤッタ! 大剣使いだ!! 格好良い!!」
「う〜〜〜ん、風使いかぁ。 強そうに見えないなぁ」
「大工……うーーーん。 え? おじさんの店が、あの最先端の高級住宅を建てた? スゴい!! 弟子入りします!!」
「………………」(無表情で立ち去るが、口の端が嬉しそうにピクピクしている)
「????? 舛多空容太って、どんなチカラなんだ? 誰か知らない? 知らないか、そうか……」
「長寿と繁栄………………全然分からん」
「へえ。 物語みたいな騎士様って騎士だけあって、戦闘系のチカラだろうな。 しかも物語に出てくる様な凄く格好良い騎士。 よし、良いの得られたなぁ」
「うわぁ……ダンジョンガイドってアレだよな? ダンジョンの新人を育成する案内人。 地味過ぎる……」
「お前はなんだった? おっ、斧使いか。 オレと一緒だ! チーム組もうぜ!」
「事務か。 命がけのダンジョンに挑むタイプのチカラじゃなくて良かったなぁ。 ただ、事務作業が上手くなるからって仕事量が泣きたくなるみたいだけど……まあ、命がけの仕事よりは良いか」
〜〜〜〜〜〜
………………………最後だった。
全員の一喜一憂を見守った事になる。
ボクを抜いて、総勢435人分。 ヒマ過ぎて人数を数えてました。
望み通りのチカラを得られたからと言って、自分がその望み通りの人物になれるかは別だろうに、理想の姿になれたともう喜ぶのはどうかと思う。
……うん。 だた羨ましくて、強がっているだけなんだけどさ。
だってしょうがないでしょ。
こんな大きな目玉イベントで、みんなとチカラを確認しあってワチャワチャできずにポツンと座らされるのは、空しすぎるんだから。
それでようやく職員さんに呼ばれて、神授室へ。
それで部屋に入ったら、チカラの説明。
「これから授かるチカラは、期間限定のチカラです」
から始まる説明に、度肝を抜かれた。
けど、説明を聞いていれば納得。
なんでも、チカラを使うのには体にある見えない溜め池みたいな所から汲み上げるナニカが必要なんだって。
それでチカラを日常的に使っていれば、大体1ヶ月位でチカラの源が溜め池から尽きてしまうと。
病気とかで寝込む時は、なぜかもっと短くなる事が多いとか。
それで溜め池にナニカを再び満たすには、今の世界にした自称神様の像(家庭用)に祈れば良いと。
意識が無い病人の場合は、そばに置いておくだけで良いと。
チカラを授かると、自然とチカラの名前が頭に浮かぶ。
それと授かったチカラはここで職員に伝えてメモされて、戸籍に追加すると。
国が知っているチカラを授かったなら進学先の各学校で使い方を学べるけど、分からないチカラを授かった人は特別な学校へ行ってもらって、使い方の探求をしてもらう事になる。
それで授かったチカラに合わせた進学先を選んでほしい。
チカラに関係する仕事をしたくない場合はそれ用の進学先もある。
チカラに関係する仕事を目指していたけど、途中で諦める場合もさっき言ったのと同じ所へ転校してもらう。
他にも細かい話は有ったけど、覚えきれないだろうからコレを見て。 と小冊子を渡された。
なんで最後に小冊子をくれるのにわざわざ説明したのかを訊いたら、小冊子を読まないやつが必ずいて、読んでない知らない聞いてないと言い出すからその対策だって。
そんな事務的な会話を聞き終えて、ようやくチカラを得る段階に。
神授室は狭い部屋で、2㍍サイズの自称神様の大きな像と人が3〜4人でいっぱいになりそうな狭いスペース。
あと天井から下がっている照明のみ。
壁は落ち着いた色合いの壁紙が貼ってあり、床には絨毯。
そんな所で直立して頭を深く倒す。
そのままの体勢で少しいると、頭になにか文字が浮かんできた。
それを口にしてみると……。
「【理不尽の塊】」
訳が分からない。
職員さんと二人で顔を見合わせて、首をひねる。
なんだろう? なんでしょうね?
なんてやり取りをしてから、職員さんから今日はお疲れ様でした。 気を付けてお帰りになって下さい。
なんて退室を促されて帰った。
この得たチカラの真価を知るのは、まだ少し先になる。
蛇足
現在の地球
自称神が地球を舞台に、シム系にちょっとしたスパイスを加えたシミュレーションゲームをしているみたいな、感じなんじゃないかと思う。
チカラについて
多分ランダム。
任意で配布出来るはずだけど、面倒がってランダム配布で設定している可能性あり。
チカラを得てもすぐ使いこなせる様にはなっておらず、ちゃんと使えるようになるには結構長い時間が必要。
チカラ別の学校
戦闘系・農畜産系・商業系・生産系・研究系・管理職や指導者系・エンタメ系・その他・チカラと関係ない系。
そんな感じで学校が分かれており、これがこの世界の実質高校。
高校までは無料。 だってダンジョンに潜ったりダンジョンの物を加工して使えるようにしたりする人材がいないと、社会が成り立たないので。
それらが居なくなると、国が滅ぶレベルで重要なので。
金が無いから入学・通学させられない! なんて人的(チカラ的)損失は国として極力回避したいスタイル。
もちろんチカラを使いこなせるようにするのがメイン教科だけど、普通の勉強もする。
なおその他は、良く分からないチカラの内容解明を目的とする学校。
チカラに関係無い学校は実質、普通科。
チカラを使わなくても必要な仕事は有るので、それらを目指す人もこちら。
チカラを使わない進路だからって有料学校にすると差別だとか言われたり、縁の下で支えてくれる人材の必要な頭数が揃わないとかあったら困るので、こちらも無料。
ヤーグギ・フリーマン
やーぐぎふりーまん
やぐぎふりーまん
ぎやぐふりーまん
ぎやぐ自由人
ぎやぐじゆうにん
ぎゃぐじゅうにん
ギャグ住人
ギャグの住人
理不尽の塊のチカラ
普通に過ごしている間は、何にもならない。
本気で勉強や訓練をすると、常人どころか関係するチカラ持ちより数千倍の勉強・訓練効果が出る。
小さな怪我なら一瞬で治癒する。
それと普通なら死んでいる大怪我をしても「あいたたた……」程度で普通に動けるし、いつの間にかしれっと完全回復してる。
体に大穴が空いてもしれっと生きてるし、粉々にされても「危なかったぁ」とか言いながら背景のガレキからガラッと登場したりする。
ついでにとても静かな場面に居合わせると、体が妙にムズムズして落ち着かなくなる。 本気で勉強や訓練をしている間は、ムズムズしない。
他に、怒るとさっきまで持ってなかった武器をどこからか取り出したり、特に訓練してないのに勢いで武器を使いこなしたりもする。
いじめっ子達とのその後
一悶着あって、理不尽の塊の理不尽さを知って、フリーマンに苦手意識を持って避けるようになる。
なおいじめっ子達は全員戦闘系のチカラを得た。