続・最後の願い
10年以上経ってからノリで書いた「最後の願い」の続編です。
天使「うそぉ…」
俺「おい、待て人違いじゃねぇか?これ。俺死ななくて良いんじゃねえの?」
「「…」」
「それでは古田勝さん、これにて御臨終となります」
「待て待て待て‼︎何無かった事にしようとしてんだっ‼︎お前ふざけんなよ‼︎間違いで殺されてたまるか何とかしろよっ‼︎」
俺は天使の両肩を掴んでグイグイ揺りながら怒鳴り散らす。なり振りなんて構っていられない。ここで引いたら文字通りの一巻の終わりだ。
「いや、そんな事言っても幸運は使い切りましたし、どっちにしても死にますし」
「お前が!間違えた!からだろうがっ‼︎なーにが天使だこの死神野郎‼︎おいコラ、目を逸らしてるんじゃねぇ!」
「…仕方ありませんね」
お?なんかイケそうだぞ。イケるよな?なんか手があるんだよな?と希望の光が見えたと思い手を離したが、天使は何かを体から剥がそうとする動きを
「おい待て。なにしようとしてる?」
俺は天使の腕を掴んだ。
「離してください。愚かな子羊よ」
「いや愚かなのはお前だよ。天使になって誤魔化そうったってそうはいかないぞ」
「なるも何も私は元より天使です。貴方こそ最初のドアの一件をお忘れですか?子羊が天使に力で敵うとでも?」
こいつ、なんてヤツだ。結局力技かよそれでも天使かヤベエ、止め切れねぇとんでもねぇ力だ細い腕のくせしてマズイマズイタタタタ。
俺はたまらず手を離してしまい、天使は何かを引き剥がす。途端に神々しさが辺りを照らし出す。
「て、天すぃ…」
「迷える子羊よ、認めなさい。これも神の導きなのです」
「は、はい………なんて…言ってたまるかゴルァ‼︎」
俺は歯を食いしばり血の涙を流すような気持ちで神々しさに抗う。ふざけんなよ雰囲気と勢いで押し通そうとしやがってありがたみも無くなるってもんだコンチクショウ輪っか触りたい…いや違うっ‼︎
「な、何という生への執着。その浅ましい欲望を間違いだと認め、悔い改めなさい」
「やかましい!間違いを認めるのはそっちの方だクソ天使!もういいどうせ死ぬなら1発ぶん殴ってやる、ほら右の頬を出しやがれどうせ左も出すんだろ左右交互に俺がくたばるまでエンドレスパンチ見舞ってやる肉体労働者舐めんなよ覚悟しやがれっ!」
「1発どころではなくなっていますよ、迷える子羊よ」
「うぅるせえぇぇぇえぇっっ‼︎」
俺は自我の全てを賭けて天使に殴りかかった。
「ハイ、ご臨終でえぇすっっ!」
天使が神々しいのに慌てるという器用な事をやりながら叫ぶ。
途端に目の前が真っ暗になった。
気が付くと、霧というか雲の上というか、辺り一面真っ白な空間に俺は居た。立っているのに地面の感触もなく、頭も少しぼんやりしていて自分の存在がひどく薄くなったような気がする。これが死ぬという事なのか?
目の前には白い髭を長く伸ばし、頭部は禿げ上がっているのにやたらと貫禄のある老人が立っている。
俺「…」
老人「…」
「オイ、何とか言ったらどうだ。どうせお前が神なんだろ?お前の部下の下らない間違いのせいで俺はこのザマだよ」
「…ゴホン。あー、いや、なんかゴメンね」
老人はやたら渋い声だ。いやそんな事はどうでもいい。
「…ゴメンで済んだら世界は平和だよ…」
「お詫びと言っては何じゃけど、異世界転生とか興味ある?」
「何だそりゃ。アニメとかの話か?俺ぁそういうの見ねぇよ」
「むう。面白いのにのう」
「知らん。知らん事で釣られもしねぇ」
「何でも一つ願いを…」
「そもそもそれが原因だろうが。舐めてんのか?」
「参ったのう」
「参ってるのはこっちだ。参ってるどころか死んでるけどな」
「いや、申し訳ないとは思っとるのじゃよ。じゃが、死んだ人間を生き返すのはさらに酷い事にしかならんのでなあ」
「酷い事ってなんだよ。死ぬより酷いことがあるってのか」
「宗教なんかで死後の世界があるっていう話はあるじゃろう?じゃが、実際にあるかは誰も知らんではないか。もしあると知っていても他人に信じてもらえるかは別問題として、知ってしまった事で考え方や行動が大きく変わってしまうんじゃ。死んでも次があると知っている人間は、周りも巻き込んでとんでもない事になるんじゃ」
「前例があるみたいな言い方じゃねえか」
「そうじゃの。最後におったのは4,5千年前くらい前じゃったかのう。死後の世界に自分の臣下を連れて行く、という名目で大量の人間を道連れにしたヤツがおったの。大体そういう事にしかならんから禁忌になったんじゃよ」
「…俺もそうなるってか」
「残念ながらの。人間が知性を持って以来、生き返りで酷い事にならなかった事はないんじゃ」
「神様なんだから死後の世界の記憶だけ消すとか出来ねえのかよ?」
「出来なくはないがのう。魂に刻まれた記憶は意識せんでも行動を変えるからのう。まともな生活が出来ないくらいパーにしてしまえば生き返しても良いんじゃがの」
サラッととんでもねぇ事言いやがった。
「それこそ酷い事になってんじゃねえか。冗談じゃねぇ」
はあ。なんかもうどうでも良くなってきたな。天使は碌でもないヤツだったからムカついたが、この爺さんは話をしてても内容に関わらず不思議と腹が立たねえってか、むしろ落ち着くし。もう諦めた方がいいんじゃねえか?これ。あれだろ、どうせ生まれ変わるとかそういう話なんだろ?だったらそっちの条件良くしてもらったりとかの方がいいか。別に俺が死んでも、まあ悲しむヤツも少しはいるだろうがそもそも人間いつ死ぬかなんて解らねえしなぁ。
「うむ。なかなか殊勝な考えじゃな」
「…考えてる事も筒抜けかよ」
「神じゃからのう」
「で?実際どうなるんだ?この後」
「元々の世界で生まれ変わる場合、魂ごと洗浄してから無作為に産まれる事になるのう。人間に産まれる事は出来るが、他の条件はどうにも出来んのう」
「結局運次第か。じゃあさっき言ってた異世界転生ってのは?」
「お?興味出たかの?俺つえ〜とかハーレムとかやれるぞい?」
…今なんつった?ハーレム?ハーレムって何だデカいバイクかいや違うありゃ◯ーレーだ。落ち着け俺。急速眼球運動を伴う睡眠とももちろん関係ない筈だ。
「い…一応聞いておこうってだけだ。選択肢の一つなんだろ?」
「うむ。似たような文化、遥か彼方の星に生まれ変わる事が出来る。そこはおぬしが生きていた地球よりも個人の資質がモノを言う世界じゃ。地球で生まれる場合は規則が多くて便宜を図れないんじゃが、そこであれば持って産まれる才能というヤツを多少過剰にして生まれ変わる事ができる。こちらの不手際の詫びに、多少なりともなるのではないか、という訳じゃ」
いや、良んじゃね?もう異世界とかで良んじゃね?あれだろ、天才に生まれてモテモテになれるんだろ人生最後の願いが童貞捨てたいです早いですねとか、もう言われなくて良いワケだろ。これ一択じゃね?いや、落ち着け俺。急いては事をなんたらって言うじゃねえか。
俺は勤めて冷静に問いかける
「ほ、ほぉおおおん?わ、悪くなさそうだな〜。ち、因みに他に選択肢はあるんですか?」
「おぬし分かり易いのう。そうじゃな、あとは天使になる事ぐらいかの」
「は?天使?あのふざけたヤツみたいなのになるってか?」
「サラカエルは色々あって捻くれてしまっての。こちらでも手を焼いておるのじゃ。近頃は天使まで到達できる魂が中々おらんのでな。手が足りてないんじゃ」
「アイツが普通って訳じゃないって事か。それで?天使になると何が良いんです?」
「うーむ。説明が難しいのう。魂は知性ある者から天使、さらに神へと昇華してゆくものなんじゃ。本来はお主らの感覚では永遠に近い時を経て天使へと至るんじゃ。存在そのものが上位になると言えば少しは伝わるかの?」
「よくわかりませんが、単なる雑用係って訳じゃあなさそうですね」
「そうじゃの。仕事をせねば神にはなれんが、絶対ではないしの」
「?仕事をしなくても良いんですか?」
「ま、あまりに何もしない場合は降格じゃがの。最低限動いてくれれば据え置きじゃのう」
「じゃあどこで何してたら良いんですか」
「ここで暮らせばよい。大抵の物は用意出来るのでな。必要はないが、人間らしく食べたり寝たりもできる。普通に地球で暮らしても大丈夫じゃ。もちろん今とは別の身分を用意する事になるがの」
んん?なんかこっちも良さそうだぞ。しかしハーレムがあるからなハーレム。男の夢だからな。ここは冷静に論理的に慎重になるべきだ。
「その、異世界とかいうのがどんな場所か教えていただいたり出来ます?」
「おお、確かに気になるじゃろうな。どれ」
そう言って神様が空中に掌を向けると、身の丈ほどの鏡のような物が出現した。
「ほれ、ここから見れるぞい」
「どれどれ」
そこは老若男女どころかドラゴンや一つ目巨人、その他魑魅魍魎が血みどろの争いを続ける戦場だった。
「「…」」
「オイ。なんだこのデストロイな世界は。どこが似たような文化だ。ここで天才に生まれて敵をジェノサイドしろってか?」
「いや、ほれ。知的生命なんて大体がこんなもんじゃろ?まあいきなりこんな場所が映るとは思わなんだ。大丈夫じゃよ。ちゃんと平和な地域もあるわい」
そう言って神様は鏡に映る景色を横に除けるように腕を振った。途端に景色が変わる。
映し出されたのは農村の祭りの様だった。篝火の中、舞台へと上がる白装束の絶世の美少女。少女は舞台の中心で装束を脱ぎ捨て全裸になる。俺の目は釘付けになる。その瞬間、空から巨大な梟が降りてきて少女を鷲掴みにして飛び去った。瞬間、残された農民達から歓声が上がる。皆、狂喜乱舞する様に踊り出した。
「…オイ。完全に生贄じゃねえか。どんな世界だよ。一瞬でトラウマ植え付けられたぞ今の」
「…個人の資質がモノを言う世界じゃからな。地球より少しばかり過酷に映るかも知れんのう」
「少しばかりじゃねえよ完全に弱肉強食ワイルドワールドじゃねえか冗談じゃねえぞ才能発揮する前に野生化するわ」
「ま、まあまあ。そうじゃ、おぬしの願望、ハーレムを見てみんか?」
神様が腕を振ると、やたらピカピカした金色の建物が映った。続いて寝室の様な場所。スラリとして筋肉質の男が半裸で立っている。扉をノックする音。男が扉を開けると、満面の笑みを浮かべた薄布一枚だけの美女達が並んで部屋に入って来て男をベッドへと連れて行く。美女達に埋もれる男。
それは良い。確かにハーレムだ。が。
「オイ。なんで男の下半身が馬で、美女の下半身が全部人間じゃねぇんだ。蛇とか蛸とか蜘蛛とかよお」
「…個人の資質がモノを言う世界じゃからなのう。普通の人間より混ざっていた方が強くて生き残れるし人気があると言う事じゃろうのう」
「…ん、わかった。転生は無いわ」
「いや、何事も慣れじゃぞ?住めば都と言う…」
「ないわ」
「新しい世界が開けるかも…」
「ないわ」
「普通の人間もごく僅かじゃがおるし…」
「ごく僅かってんだよ!ないったらないったらないわ‼︎」
「そうかのう。趣味趣向によっては泣いて喜ぶ者もおると思うのじゃが…」
「はあ…俺はそんな特殊趣味じゃねえよ」
「仕方がないのう。では生まれ変わりか天使じゃのう」
うーむ。生まれ変わっても運次第だし、どっちかっていうと正解は天使なんじゃないか?これ。働かないと降格とか言ってたけど、降格って要するに人間に生まれ変わるって事だろ。じゃあとりあえず天使でよくね?
「とりあえずで選ばれるとは天使も随分と軽くなってしまったのう。まあしかし、おぬしの選択で概ね正しいと思うぞ、わしも」
「だからサラッと心読むんじゃねぇ…。はぁ。んじゃ天使でお願いします。どんな感じか少しは興味もあるし」
「おお、そうかそうか。ではこの繭に入りなさい」
神様がそう言うと、いつの間にか出現していた巨大な繭にポッカリと穴が空いた。これ大丈夫なんだろうな。ちょっと怖え…
「大丈夫大丈夫、全然大丈夫。怖いのは最初だけじゃ。すぐ気持ちよくなるぞい」
…余計怖くなる言動なんだが。まあここでウダウダ言っててもしょうがないか。よし。
俺は繭に入る。途端に後ろで穴が塞がり、神様の声だけが聞こえてきた。
「暫くかかるからのう。のんびりしておれば良い。その間にワシがお主の教育係を探す事にするわい」
おお、教育係とか付くのか。けっこうしっかりしてるじゃねえか。よしよし、やっぱり天使で正解だったんだな。
神様「おーい、ガブや」
天使「ここに罷り越してございます」
神様「人間から特例で1名、天使となる。誰か教育係を付けてやっておくれ」
天使「恐れながら、現在手の空いている者がおりません」
神様「じゃろうのう。しかし特例なのでな。上手く調整できんか?」
天使「作用でございますか。では…ああ、1名だけ、なんとかできるものがおりますね」
神様「おお、そうか。ではお主に任せる」
天使「かしこまりました」
神様「うむ。…一応聞いておこうかの。誰を付けるつもりじゃ?」
天使「サラカエルでございます」
俺「…おい。ちょっ、待てえええ‼︎」
神様「…うそぉ…」
完
書いていてけっこう楽しかったので、いつか続きを書く…かも知れません。