どうやって? まだ決まってない!《後編》
本人はまだ気が付いていないようだが、既に秘妃美は特級の魔法を扱う事が出来る条件をクリアしている。
世界の理に触れ、堪能する事で自らの意志で理に接触する事が出来るようになる。
「右手を」
常時がそう言うと、言われるがままに右手を差し出す秘妃美。
途端、ギュッと手と手が触れ合う。
「あっ……」
何だかんだと、一人で生きてきた秘妃美が久々に人との接触をしたからだろうか。
それとも、純粋に異性と手と手が触れ合う事に対しての感情が言葉として自然として漏れ出たからだろうか。
秘妃美は手のひらに温かさを感じて、驚きと安らぎの二つの感情が入り混じる。
つまり変顔状態となっていた。
「これから、俺の魔力を秘妃美に流し込む。その魔力を感じ、感じた世界が秘妃美の鋼の胃袋へと繋がる魔法となるだろう」
秘妃美はイマイチ、常時の話す内容を理解する事は出来なかった。
だが。
「んっ」
右手の手の平が熱い。
先ほどまで感じていた満腹感が、もの凄い勢いで薄れていく。
「あっ」
ジュワリ。
体中から汗が噴出する感覚がわかる。
そして、秘妃美は自らが得ていた理に接触する。
全身で食を楽しみ、全命を賭けて食を求める。
口内と舌で味わうだけの世界線では物足りない。
故に、私は身体で食を知る権利を得る。
「何、これ……初めてなのに」
握った常時の手の平から感じていた体温が、徐々に変質していく。
塩味、苦味、ゴツゴツした触感。
初めての事態に、詳しくはまるでわからないが、何度も舌で飴玉を転がしているような状態が右手の手の平から感じ取れる。
そして、秘妃美は意識した。
「これ、常時の」
言葉が途切れる。
右手の状況を、理解できる範囲で伝えるならばこうだ。
常時の手の平を舐めまわし、あまつさえ指を一本ずつ丁寧に同時に堪能し、しゃぶりつくそうと何度も何度も舌が這いまわっている。
手のひらに触れたモノの味、食感を知る為にしゃぶりつくそうとする手の平。
触感ではなく、これはもはや食感。
手に触れるだけで、食材をしゃぶりつくそうとする傲慢。
だが、今の状況はまるで……。
「これが秘妃美の得た特級接食魔法だ」
手を離すべきか否か、悩みつつ秘妃美は手をギュッと握り締めながら顔を伏せた。
「制御は難しいと思うが、特級魔法はカロリーの消費が激しいが胃の中の物が一気に消化されるわけではないので、注意が必要だ。飢餓を感じるようであれば、必ず相談するように」
「うん……」
モジモジする秘妃美がなかなか手を放してくれない事に、制御に不慣れで頭が整理中なんだな、と結論づけた常時はしばらく秘妃美と手を繋ぎ合ったまま過ごすのであった。
次回予告ゥ!
帝都の飲食店で流行っているフードファイターへの挑戦状。
その挑戦状の中から常時が選びだしたのは無名のパティシエールが経営するケーキ屋。
圧倒的なボリュームに対する安価に大人気だったその店は、突如姿を消していた。
だが、圧倒的な情報網からそのパティシエールの現在の居場所を知った常時は二人にそのケーキを食べてくるように指示を出すのであった。
次回、グレイな商品。
乞うご期待。




