マイホーム
知らない寝心地ですわ。
とても柔らかく、まるで雲の中のモコモコに全身が包まれているかの如く、凄く気持ちいいですわ。
ところで。
「ここ、何処ですの?」
意識が覚醒する。
布団の中から顔を出すと、知らない天井がまず視界に入り、そのまま周囲を見渡すも知らない家具が目に付くのみ。
つまり。
「ここ、何処ですのぉぉぉ!?」
そこで、ふと自分が一糸まとわぬ姿という事にも気が付く。
「何でお裸ですのぉ」
実家のベッドよりも何倍も高級感漂うシーツをはぎ取ると、体に巻き付けベッドから抜け出る月海。広い部屋の隅には実家で一番高いと玄関口に飾っていた高級な壺が、無造作に飾られていた。
「この服、借りても良いわよね?」
キョロキョロ誰も居ない部屋を見渡しながら、誰に断りを入れるでもなく一人愚痴る。
不思議な事に、クローゼットの中にある衣服は全てサイズがピッタリで、何だか気持ち悪さを感じる。それでも、このシーツを纏っただけの姿のままにもいかず、月海は適当な衣服に着替えていく。
座り心地がやけに良い椅子に座ると、昨日の事を思い出そうと思った月海である。
十六歳になったある日、自身の住む田舎町に出来た食事処で復讐を誓った私は貴族の娘で、食事を残す事は一生の恥といっても過言では無い地域で生まれ育った。
何故復讐をしようと誓ったかというと、そんな生き恥をかかされたからだ。
並盛を頼んだにも関わらず、異常な量を提供する店側は残しても構わないという煽り行為を行い、次々と注文客を生き恥地獄へ叩き落としていった。
過去、食べ残しをしたお父様の同僚の人が領地から追放された事もある地域なのだ。当然、食事を残した私も例にもれないハズだった。
だけど、私は生き恥をかかされたその店に復讐するために対策を考え、一週間後に復讐を行った。
結果、2キロ程の重量を食べる事には至ったが並盛の壁は分厚く、人生に二度もの生き恥をかくところだった。
でも。
そこで常時という男の人と出会った。
第一印象は失礼なオジサンだったが、そんな印象を塗り替える程の出来事が起こった。
「後、俺が完食したらお前を貰う」
そう言い放つと常時は残量10キロオーバーの並盛定食をシェアして完食をしたのだ。その姿は勇ましく、彼に異常に惹かれた。
その後、実家で生き恥をかいた事を伝え、娘である私も実家から追い出された。
但し。
常時が責任をもってくれると言い放ち、まだ彼の事を何も知らないというのに、この人ならきっと大丈夫だと、そう思った。
しかしそんな思いも一瞬で終わり、彼の本来の目的である秘妃美さんに会いに行くという事で、特級系の移動魔法で目的地へ移動すると、彼女の抱いていた夢を叶えるべくDODOへと移動をした。
そこでラーメンを食べ、お風呂に入って、その後……。
「思い出せませんわぁ! 記憶のdiaryにも記載されていませんわぁ! 明記されていませんわぁ!」
頭を抱える月海。
いくら考えても何も思い出せない為、とりあえずこの部屋の外へ出て状況を確認する事にした。
「誰か、おりますのぉ?」
そぉと扉をあけると、やけに広い廊下に出る。
廊下に人の気配を感じ、声を掛けながら扉をあけるとフルアーマーを着こんだ二人組の人が居た。
「あのぉ、ここは一体どこですの?」
「お目覚めですか。お連れ様は隣の部屋にいますよ。ここは……貴女様のお部屋です」
「どういう意味、ですの?」
「この部屋と、隣の部屋は常時様が利用権を取得したため、ここは貴女様のお部屋でございます」
「その、そういう意味では無く……ここはどの地域の、どこですの?」
「ハハハ、面白い質問ですね。ここは」
一拍溜め、フルアーマーの男性(声から判断)は言い放った。
「帝都の中心、王城の中にある一室ですよ」
「うんうん、王城の中にある弐部屋だけで良いとか、常時様も謙虚だよなぁ」
「そうだよな、アハハハ」
アハハハ! じゃ、ないですわぁ!
意味が解りませんわぁ!!!
「そ、そうですのね。ちょっと隣のお部屋に入ってもよろしくて?」
「構いませんよ」
「そ、それでは」
自然と速足になり、隣の部屋にノックをするも反応は無い。
フルアーマーさんは入っても構わないと言われたため、扉をあけ中へ入る。
「誰か、いますですの?」
部屋の中は私が居た部屋と同じような作りで、これは客人用のお部屋なのですわね、と理解をする月海。
そして、ベッドの毛布が一定のリズムで上下しているのを確認すると、そこに誰かが居ると判断してそっと近づく。
「起きてますの?」
「……んぅ」
女性の声。
つまり。
「秘妃美さんですの?」
「……ん、誰?」
寝ぼけ眼で顔を出す秘妃美さん。私と同じく、混乱しているのですわね。
「私、月海ですわ」
「一体何が……ここ、何処? 私、確か賃貸の契約が切れて、それから……」
一拍開け。
「それから、寝ちゃったら長い長い夢を見ていて。おじさんが家に来たり、変なサイトで送った夢物語が実現しちゃったりする夢を見て、気が付いたら……」
「秘妃美さん」
「あの、何で私の名前を」
「昨日のラーメン風呂は、現実でしてよ」
「……え?」
「現実ですわぁ!」
「え、えぇええええ!?」
悲鳴と共に、ベッドから起き上がった秘妃美さんも、一糸まとわぬ姿で意識を覚醒しだすのであった。




