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丞弥とアオ  作者: 猫嶋こめお(Rawbit)
1/1

アオ、月夜に丞弥を訪ねる


まえがき


はじめまして、猫嶋こめおといいます。

本作は、pixivにて趣味で投稿している創作BLイラスト「アオしょやシリーズ」の、セルフノベライズです。

本作のキャラ紹介画(・挿絵)は、文章の執筆と同様「猫嶋こめお(Rawbit)」が作成しています。



彼らに興味を持っていただけましたら、よろしければpixivのイラストも覗いてみてください。※

(この小説は、pixivのリンク先アカウントにも掲載しております。)



pixiv

※成人向けを多数含むアカウントにつき、耐性が無い方はご注意ください。

https://www.pixiv.net/users/45287619



※投稿日現在、キャラ紹介のみで挿絵はありません。可能であれば、後ほど用意する予定です。



■登場人物


叶 丞弥(かのう しょうや)

挿絵(By みてみん)


主人公。小5。

繊細で優しく、表情豊かな愛らしい少年。

複雑な過去から、その眩しい笑顔の下に深い心の傷を抱えている。




蒼姫 隹斗(あおひめ さいと)(アオ)】

挿絵(By みてみん)


主人公。小6。

セミロングの金髪に色白の肌、ややくすんだ青色の瞳をした、美しい日仏混血の少年。

不良上がりであり、派手目の装いをしている。

丞弥の良き友。







1

一人の時間は、苦しい。


光に照らされた何処までもキラキラと輝く景色が、突如絵本のページを捲ったように暗転する。

まるで太陽が無理やりハンマーで地平線の向こうへ落とし沈められてしまったかのように、それは世界を光の届かない暗闇へと変える。


陽の光を失った僕を、焦燥に駆られた僕を、夜の闇が襲う。闇は僕を寒々しい孤独感という底なし沼に沈めて、身体中から「楽しい」「嬉しい」という宝石のような輝きを奪っていく。





一人の時間は、好きだけど嫌いだ。

僕は、一人の時間は空想にふけることが多い。空想は穏やかに揺れるメリーゴーランドや汽車のように、僕を楽しい夢の国へ連れていってくれる。


でも時々スイッチが真逆に触れたように、動く死体の這い出てくるような不気味な更地行きに、方向を変えてしまう。

無限に広がり続ける僕だけのテーマパークの通行きっぷが、気づくと黒く淀んだ谷底へと僕を放り堕とすような、雨泥に濡れたただの紙切れになっている。






僕は明かりのない暗い自室のベッドに腰掛け、月明かりに片側が照らされた己の剥き出しの両足を見つめて、ぼんやりとしていた。


いつもならリビングで仕事なりテレビを観るなりして過ごしているはずの仲人(なかひと)叔父さんは、家を空けている。

生きている人間の気配がない家は、まるで魂を失った抜け殻のように静かで寒い。



僕は、叔父さんのひと回りもふた周りも大きなワイシャツに埋まるようにして、身体を丸めた。

寒い。とにかく、寒い。心が、寒い。



自室の白い壁を、じっと見る。仄かにベージュがかったまろやかな壁は、月明かりを受けて僅かに青色を滲ませている。



今日の月は、青い。

いま僕の感じる青は、ただただ身を縮こまらせる氷のように冷たく、けれど何処か僕に寄り添ってくれる不思議なあたたかさもあるような、そんな青だ。




............

.....青、あお、蒼。



アオは、青い綺麗な綺麗な瞳を持った彼は、今頃どうしているだろうか。

もう晩ご飯は食べただろうか。あたたかいお風呂に入って、今日も俺よく頑張ったなと、自分を褒めている頃だろうか。





僕は、顔を上げてベッドから床へ降りた。

月明かりに導かれるように、サッシをカララと開ける。叔父さんの花壇に面したベランダに出る。


ワイシャツの背中側の裾を太ももの後ろに寄せ、窓際に座る。あまりに明るく闇にぽっかりと浮かぶ月を、ぼんやりと見上げる。



「アオ....君も今頃、この月を眺めて孤独を感じているの....?」



彼もいま自分と同じように、この明るすぎる月を眺めている気がした。





僕は10分か20分か、そのまま何も考えずぼんやりと月を眺めた。

身体がぶるっと震えた。気づくと、露出した両足が少し冷えてきていた。


5月といえど、やはり夜の空気はまだ少し冷たい。両手のひらを擦り合わせ、冷たい両足の皮膚も擦って熱を呼び止める。



そろそろ部屋に戻ろう。

風邪を引いたら、叔父さんや学級のみんなに心配をかけてしまう。僕は後ろ髪引かれるように、月に背中を向けて部屋の中へと入った。





ピンポーン

すると、ちょうどそこでインターホンが鳴った。時計は夜の7時過ぎを指している。

僕は、慌ててリビングの来客用モニターまで駆け寄った。



『こんな時間にすいません。かの.....丞弥、くん。いますか』



アオだ。バックに夜景を据えた暗闇の中、彼の金髪と色の白い肌がぼんやりと浮かんで見える。



「...アオ....?」


僕がマイクボタンを押して返答すると、彼ははっとしたように顔を寄せた。

『!....叶?こんな時間にすまない。すぐに帰るから、ちょっとだけ出てきてくれないか』

「いいけど....突然どうしたの?」


いつもの強気な雰囲気の中に、幾分か焦りのような感情が混じっている。何かあったのだろうか。

『いや、特に用事は無いんだが.........なんか、お前がひとりで泣いてるような気がして。いますぐお前の所に来なければいけないように思ったんだ。おかしいよな。

........やっぱ俺、帰るな』



....行かないで!

一瞬息が止まる。次の瞬間、僕は反射的にモニターを両手で引き留めるように掴み、モニター越しの彼に向かって大声を出した。


「....!待って!いま開けるから、そこに居て!」








「よお。テレビとか、観たいやつの邪魔とかしてなかったか?」



玄関のドアを開けると、両ポケットに手を入れて片足に重心を預けながら、ソワソワと僕を待つアオが居た。

僕がドアの影から顔を出すと、ほっとしたようにこちらに向き直る。



僕は、帰らずにそこに居てくれた彼を両の目でしっかり確認して、そっと胸を撫で下ろした。力の入っていた肩も、ふっと降りた気がする。

僕は、彼がそこからいなくなっていることを、恐れた。



「ううん、大丈夫。...いまは、特に何もせず部屋に居たから」

僕が力無く微笑むと、アオも「そーか」と微笑み返してくれた。


しかし、ふと僕に投げかけた視線を下に向けた途端、弾けるように大きな声を出した。


「ってうおっ!?なんつーカッコしてんだ!風邪引く上にそんな格好で出てきてんじゃねーよ!とりあえず中で少し話させてもらうから入れ!」



僕は、玄関に太腿の下の方まで露出したワイシャツ姿のままで出てしまっていた。アオは僕を中へグイグイと押して、素早くドアを閉めた。







2

叶の家は、静かだった。リビングは暗く、がらんとした広い空間は少しばかり寒い。



俺はあまりに無防備な格好の叶を家の中に入れたあと、そのまま帰ろうとした。

が、「紅茶でも入れるから飲んでいってよ」と無理やり上がらせられた。





「今日はお前の叔父さん、留守か?」

俺は、先を歩く叶のやたら丸い頭の後ろ姿に話しかけた。

「うん。今日は新しいメーカー?の雑貨を工場まで見に行くとかで、県外に出てるんだ」


俺と叶は話しながらリビングへ入る。

キッチンに来ると、叶はカチッとキッチンの白色の小さなライトを付けた。ちょっと待ってねと、棚からティーカップとソーサーを出してシンクに置く。

俺はカウンターに肘をつき、湯沸かしポットからジョボボボと熱湯を注ぐ叶の横顔を見る。



「....ごめんね、無理やり上がらせて。ここ寒いから、僕の部屋で話そっか」

叶の顔からは通常のキラキラとした輝きは消え、代わりにどこか陰ったような暗さが滲んでいる。

やはり俺はここに来て正解だったかもしれない。


「ああ、いいぜ。なら、お前のぶんの紅茶も入れていけよ」

「ううん、いい。いまはそういう気分じゃないから」

少し下を向いて、頭を横に振る叶。


「なら、白湯だけ入れていけ。お前そんな格好じゃ身体冷えてるだろ」

「.....わかった」

俺の提案に、叶は普段使いのコップを出して、再び湯沸かしポットからお湯を注いだ。







紅茶の入ったティーカップと、白湯の入ったコップを乗せたお盆を抱え、叶とともに叶の部屋へ入る。


電気は付いておらず、暗い。開いたカーテンから差し込む月光だけが、叶と叶の部屋に置かれた物達の存在を留めているように感じた。



「......ベッド、座っていいか」

「....あ、....うん」

ベッドの主よりも少しばかり重い俺の体重に、ベッドは驚いたようにギシッと音を軋ませる。

叶が俺の横にお盆を下ろし、お盆を挟んだ反対側に脱力するように座った。



「で、一体どうしたんだよ」

「.....別に、何も無いよ。ただ、一人でいると、ちょっと辛くなるっていうか」

「それは、今日お前の叔父さんが居ないからか?」


叶の瞳が暗い。

俺は白湯の入ったコップを叶の方へ寄せ、無理やりでも飲むように促した。


「....そうだね。叔父さんがいれば、あんまり辛くはならない。でも、たまに夜眠る時とか、一日以上留守にしてる時には辛くなったりするから、ほら」


叶は、自身が着ているかなり大きめのワイシャツを示した。

「これ、叔父さんのなんだ。叔父さんの匂いが感じられると少し安心するから、留守にする時はいつも一着貸してもらってて」



なるほど、どうりでこんな格好をしているわけだ。

「........下は?なんか履かねーの?」

叶が、正面のテーブルから膝の辺りに視線を落とす。白湯をいくらか流し入れてお盆に戻したあと、膝に手を置き足を伸ばした。


「本当は、君が言ったみたいに冷えるし、履いた方がいいよね。

でも僕、なんか足を覆ってると落ち着かないんだ。不安になるっていうか。着れても、くるぶしまで無いやつとかぐらい」



足を覆うと不安?どういうことだ?



「なんか理由があるのか?それ」

「....わからない。なんだろう。気づいたらこうだったから.....でも、なにかあるんだとは、思う」

叶の声が少し低く小さくなる。伸ばした足を、再び手前へ引っ込めた。



「そうか。....ただ身体が冷えると、ネガティヴになりやすいんだ。せめて座ってる時はなんか掛けろ。ほら、これとか」

俺は、ベッドの隅にくちゃくちゃにまとまった薄手の毛布を片手で掴み寄せた。コップと同じように叶の方へ寄せる。



「....そう、なんだ。知らなかった。白湯を勧めたのもそういうことだったんだね。ありがとう、アオ」

叶が、俺の引っ張り寄せた毛布を膝に掛ける。足元はもこもこした素材のスリッパを履いているので、足先の冷えは大丈夫だろう。



「あのさ。....変なこと言うかもしれねーけど、いいか」

「....なに?」

「叶........俺、今日泊まってもいいぜ」

「....え?」

叶は、いいの?という声が聞こえそうな顔をした。



「お前、今日、潰れそうだったんだろ。そんな顔してる。

俺もさ、わかるんだ。親父がずっと家帰って来なくて、家では一人で過ごす時間が大半で。

俺はお前ほどたぶん繊細じゃねーけど、辛かった」


俺は、後ろ側へ預けていた身体を起こし、膝に肘をついた。両腕の拳を、思わず握りしめる。



「.....アオは、いままで一人の時どうしてたの?」

叶も、膝の毛布を両手でぎゅっと握りしめて、俺に尋ねた。


「そうだな....漫画をずっと読んでた。漫画の世界に逃げている時だけは、楽しい世界に生きていられた。

....まあ、不良仲間とつるんでれば幾らでも気付かないふりが出来たが、夜になると補導されるから帰るしかねーし、心から安心出来るような居場所でもなかったからな」



叶は、俺の言葉へなんて返していいか、少し戸惑う顔をした。そして、「......今日は、寂しかった?」と俺に尋ねた。


「どうだろう。適当になんか買って飯食って、今日もなんか終わっちまったなあ〜って横になったとこで、窓から月が見えたんだ。


そしたら、突然叶の顔が頭に浮かんだ。

そん時のお前、泣いてた。ただの俺の頭の中の妄想なのに、やけにリアルだった。で、何故かわからないけど居てもたってもいられなくて、気づいたらここに来てた」



「....そっ、か。なんか、不思議なことも、あるね。

僕も、ね。さっき月を見てた。アオも見てるんじゃないかって、何故か感じた」

「なんだ、お前もかよ。うわー、なんか、へんてこりんな偶然だな」


俺は、少し声を柔らかくして、軽く笑った。

叶も俺につられたのか少し笑ったが、そのあとに瞳をふと強張らせて、眉を落とし苦しそうな微笑みを俺にこぼした。

「ふふ、でもそのおかげで、アオが来てくれた。僕.....とってもほっとしちゃった。たぶん、心が、泣いてたから」



その時俺は、無性に叶を抱き締めたくなった。

だが、いや駄目だと無意識に上げていた腕を下ろす。




叶は、他人と触れる、いや、他人と一定以上距離を詰めると、パニックを起こす。その際に爆弾みたいないつ破裂するかわからない得体の知れない不安を感じる、そう言っていた。


それが何によるものかは俺にはわからない。

だが、叶には特段潔癖症であったり、強迫性障害のような発作は見られない。叶が過去に受けた辛い何かが、他人と近づかないように、他人に侵されないように、そうさせているのかもしれない。

....己がこれ以上傷つかないように、叶自身を守っているのかもしれない。




月明かりに照らされた、叶の横顔を見る。

叶は髪の毛が細く、どちらかと言えば大人しめの、髪が長ければ女子と間違えそうな顔や雰囲気をしている。体格も華奢だ。

そして、とても繊細で、優しく、よく泣く。



叶は、そこら辺にいる男なんかとは比べ物にならないほど、脆いのだ。

芯はむしろそこら辺の奴よりも強いが、いつもどこか儚げで、放っておくと消えてしまいそうにさえ感じる。



そんな叶に、俺が出来ることは無いのか。目の前で孤独に震えている奴がいるのに、何かに脅えている奴がいるのに、俺はそっと抱き締めて軽くしてやることも、手を握ってやることさえ出来ない。


俺には他人の痛みなど理解するすべはない。でも、でも何か無いのか。ひとつぐらいは出来ることがあるはずだ。





少しばかり沈黙が続いた。俺は一度深い深呼吸をした。

そして、真横を向いて叶の顔をしっかりと見る。叶が、体勢を正した俺を見て、視線を俺の顔の方に上げた。




「叶。聞け。これからは、俺の隣にいろ」

「....えっ?」




よく意味がわからない、という顔だ。それもそうだろう。

俺は続ける。


「独りが辛くなったら俺のところに来い。もし来れないなら、俺を呼べ。たぶんねーけど、万一用事とか埋まってたらそれが終わってから駆けつける。留守だったら留守電を入れてくれればいい。

....あ、夜中の便所が怖いからついてきてくれ〜みたいなのはナシな」

俺は、そこまで言ってから、にっと笑う。



「なん....で」

「寂しくて潰れそうなら、少しでもその時間を無くして誰かと居た方がいい。

幸い、俺は孤独の苦しみを知ってる。何かひとつぐらいは寄り添ってやれるかもしれない。それに、単純にお前といると飽きない。いい提案だろ?」

「っ....」



俺は、叶に触れない代わりに、顔をくしゃくしゃにした叶の右手の少し近くに、自分の左手を置いた。

「お前は笑ってた方がお前らしいよ。だからそんなに泣くな」

叶の目の端に溜まった涙を拭うように、傍にあった箱ティッシュを渡す。叶は何枚も何枚も取っては目元にあてる。それでも、後から後から涙が溢れ出す。



「っ....なんで、そんなこと、....言ってくれる、の」

俺は、叶の目をじっと見つめる。

「....叶が俺を、俺自身を見てくれたから。俺の外側だけじゃなくて、この奥まで」

俺は、握りこんだ右手で俺の心臓を指す。


「すげー嬉しかった、あの日お前が、俺と友達になりたいって言ってくれた事。

俺はお前と出会ったから、少年院の半年間、毎日苦しくても自分と向き合えた。ずっと目を逸らしてきた己の弱さと向き合って向き合って、そして律する訓練を投げ出さずに続けられた」



叶が、目を見開いて俺を見る。その瞳に、先ほどは消え失せていた光が仄かに戻っている。

やっぱ、お前が言う俺の青い目よか、断然綺麗な目してるぜ、叶。



「だからさ。んー、なんつーのかな。俺は叶のさ、あの日出会った時みたいな、笑ってる顔が見えないと逆に不安になるっつーかさ。

あっ。でもこれはな、別に泣くなって意味じゃなくて、なんつーかそのーーー」

「っく、ぐすっ、」

「うわっ!言ってる傍から盛大に泣くなよ!」

叶が、ティッシュでは受け止めきれない涙を手の甲まで覆った袖で拭う。



「だって....君の言葉がとてもあったかくて....包み込んでくれる、みたいで」

「ほう」

俺は、顎に手を当てて興味深しげな顔をしてみせる。



「はっはあ、あれだ、俺の心はいつでも燃えまくってるからな。燃えすぎて、言葉の端まで熱が届いちまったかもなあ!

なんなら、物理的に包み込んでやってもいいんだぜ〜」

俺は手をわきわきさせて、冗談めたくおどけてみせる。ちょっと自分で何を言っているのかわからなかったが、まあいい。


「......」

叶は、まんざらでもなさそうな、して欲しそうな顔をして、俺のわきわきする手を見る。



冗談めかしてさり気なく言ってみたが、やはり叶は人の物理的なあたたかさを求めている。

俺は、咳払いをひとつして、一息を挟み冷静になってから、真面目な声に戻してこう続けた。



「叶。お前、人と距離詰めるとパニックになるんだよな。なら、今日から俺と少しずつ触れるとこからでも練習するか?」



「....!練、習....?」

「そうだ。一回お前の主治医ーーーいつも診てもらってる病院の先生に、やっていいか聞いて来い。ダチと距離詰める練習していいかってな。

こーいうのは下手にシロウトが判断して勝手にやるべきじゃない。OKが出たらやる。どうだ?」


叶は、俺の提案に目を一瞬煌めかせた。いちど腰を上げて俺の方に身体を向けて座り直す。

そして、俺の方へ身を乗り出す。お互いの顔が先ほどよりも近くなる。



「アオは....僕がしてって言ったら、ぎゅって、してくれるの?」



ぐっ。

俺は、少し照れくさくなりながらも即肯定した。


「してやる。まあ、男同士でそんなやるもんではないだろうが、別に減るもんじゃないし。もちろん、今すぐはお前の不安が強いから駄目だ。


...で、練習するのかしないのか、どっちだ?」



「....っする、僕、するよ!....練習.....!」



叶が、今日一番の大きく元気な声で、返事をした。

そして、その声を聞けて、やっと俺の目元も緩んだ。


「決まりだな。

....心理学の本で読んだんだ。人はものに触れると、ここから安心するホルモンが出るんだと。いまのお前みたいなのには、まさに必要だろ?」

俺は、ここ、というところで自分の頭を人差し指でトントンと打つ。



「....うん。そうかもしれない。アオ、...ありがとう」


叶は、その瞳の端に月明かりの反射した宝石のような涙を浮かべながら、微笑んだ。

柔らかく穏やかで、何処までも透き通った美しい浜辺のガラスのような、そして何処か不完全な愛おしさにこちらの胸の何かがくすぶるような、そんな微笑み。



ドキン



俺の胸のあたりが、静かにひとつだけ、俺の耳にまで届く鼓動を打った。

そしてその数秒後、俺ははっとこの場に引き戻され、誤魔化すように叶の反対側へとそっぽを向いた。


そして数秒後、こう添えた。



「.....ああ。まかせろ。ダチっつーのは、そいつが困ってたら助けてやるもんだ」





(あとがき)

お読みいただきありがとうございました!

実は、この小説は人生で二度目の執筆作品です。いままでは、10年ほど趣味でずっとイラストを描いてきました。


本当はまんが(Webtoon)という形で彼らの物語を発表する予定でした。

が、作者の体調や画力諸々でまんが作業がとん挫、プロットを小説という形にしたところとてもしっくりきたため、そのまま小説という形で発表・展開するに至りました。


そのためまだ小説という表現の勝手もわからず、空行の取り方も探り探りで、全体的に至らない点ばかりです。

が、やはり愛しいうちの子たちの日常をこの手で描けるのは、本当に楽しく、心が創作の喜びで溢れています。

文字という形でしか描けない彼らの成長ドラマを、少しずつ綴っていきたいと思います。

登場人物も続々と登場させる予定でおりますよ~。



■当シリーズは、投稿順≠時系列順です。

エピソードとして成立したところから、小説として公開していく予定です。

そのため、つじつま調整などで一部設定・描写があとから変更される場合があります。



気に入っていただけましたら、よろしければ続編も楽しみにお待ちください。(感想などで応援もしていただけると、大変励みになります!)

ありがとうございました。

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[一言] 拝読しました。 こめお様の心の底から出てきたような素直な感情表現の言葉たちがとても瑞々しく、こうした関係をご自身で芯から望んでいらして、自分の欲しい温もりを創作の子達に与えていらっしゃるのが…
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