いつか見た光:後編
「言われた通りの住所に付いたわよ」
「ありがとうございます」
リグレット君に言われるままに来たけど、ここって……あの時のお家だわ。
……お花はもう無くなっちゃったのね。
「ここの花畑はとっても綺麗でしょう?」
リグレット……そうよね、あなたには見えてないんだもの。
「ええ、とってもきれい!
こんなの初めて!」
嘘ついてごめんね?
「昔ね、ここである約束をしたんです」
それって――
「本当はヘアオイルを使わせてくれるっていう約束をするつもりだったのですが、相手に勝手に変えられたんです」
「そ、そうなんだ。
どんな約束をしたの?」
「どんな約束だったと思いますか?」
リグレットが転ばない様に私とつないでいた手にぎゅっと力を込めてきた。
……なんだ、バレちゃってたのか。
「わかんない、教えて?」
「いいですよ。
それは……げほっ……ぐ、ぐぅ」
え、どうしたの?
なんでそんなに苦しんで……って、さっきの薬はどこ!?
確か上着のポケットから出してた……あった!
って、嘘……これ、ただの「ビタミン剤」じゃない!
こんなのでどうしろって……ああもう!
すぐに人を呼んでくるから、ちょっとここで待ってて……え?
「いいんです。
それよりも……げほっ、もっと一緒にいてください」
……リグレット?
「実は、もう手遅れなんです僕。
もともと治らない病気だったらしいですよ?」
えっ、えっ……? も、もっとわかるように言ってよ!?
「簡単な話ですよ。
あの救護院のやつらが僕から……いいえ、姉さんからお金をむしり取るために、治らない僕の病気のことを隠していたんです」
そんな!
「僕がそのことに気づいた時、……いえ、あいつらからその話を聞かされた時にはもう、治療費は莫大なものになっていて、とてもこれから先も姉さんに払ってもらえるような金額じゃなかったんです。
だから僕はあいつらが僕が死ぬのを先延ばしにしていた薬を捨てて、姉さんにビタミン剤を入れてもらったんです。
空き瓶をもらったから何か入れてみたいんだ、って言って……
知ってますか?
たとえ救護院から退院していたとしても、その日の内なら保険金が入る契約が今年から始まったんです。
あいつら、僕が薬を飲んでなかったって知ったら驚くだろうな……」
……なにそれ?
ていうことは何?
あんた最初から死ぬ気でいたの!?
冗談じゃないわっ! 約束はどうすんのよ!?
「や、約束って……げふ、こ、こふっ、なんだったっけ?」
バカ……しってるくせに……
「あんたは私と結婚するのよ!」
「ああ、そうでした。
本当に……けほっ、君とそうできたらどんなに……君は僕の……僕だけの光……」
ちょっと、リグレット!?
あんた、こんなに可愛いお嫁さん置いて、いったいどこに行く気よっ!?
ひとりでどこかに行くなんて許さないわよ!
こうなったらあの世でもなんでもついて行ってやるんだから……わぷっ!?
「ふむ、だから聞いておいた方がよいといったじゃろ?
すまんがこの小僧を頼む……あ、待て……こやつ舌を半分ほど噛み切っておる!
まったく、阿呆なくせに肝が据わっているのは「あの」母親譲りといったところかのぅ。
小僧が終わったらこやつも頼むぞ、ユーリ」
――
きっと柔らかな日差しが降り注いでいる。
そして僕の庭いっぱいに光が満ちていくんだ。
君はどんなふうに笑うのかな?
眩しくはないのかい?
いいな、僕もここから出られたらな。
そしたら君と一緒にいつまでも……なんてね。
できるならこの夜のようになめらかな暗やみに……
誰でもいいから光を灯してくれないか?
「おーい、ちょっと聞いてるの?」
……あ、ごめん何の話だっけ?
「ったく、すぐに目をつぶるのやめなさい!
癖は意識して直そうとしないと……何で嬉しそうなの?」
君が僕のそばにいてくれるから。
「そんなの夫婦なんだからあたり前でしょ?
ほら、それよりこれ「見て」っ!
今日は久しぶりにヘアオイルの新作が出てたわ!」
本当だ!
じゃあ、今日は僕が君につけてあげるね――
もうどんなに暗くたって怖くない。
いつだって君が僕に明かりを灯してくれるから。
たまに眩しすぎる時もあるけど……なんてね。




