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いつか見た光:前編

 きっと柔らかな日差しが降り注いでいる。


 そして僕の庭いっぱいに光が満ちていくんだ。


 君はどんなふうに笑うのかな?


 眩しくはないのかい?


 いいな、僕もここから出られたらな。


 そしたら君と一緒にいつまでも……なんてね。


 できるならこの夜のようになめらかな暗やみに……


 誰でもいいから光を灯してくれないか?


「おーい、ちょっと聞いてるの?」





 ――


「よいしょっと!」


 ふぅー、やっぱり男がいないと力仕事が大変ね。


 午前中に終わらせておきたかったのに、もうお昼過ぎちゃってる。


 お腹減ったけどさっさと終わらせないと間に合わないわね。


 仕事はまだまだ沢山あるんだから……いたっ!


 せ、背中がつってる……いたたたた!


 ふぅ、ふぅ、ちょっと重いものを持とうとしただけなのに……私ももう年なのかしら?


 いや、大丈夫!


 1桁目の数字を無視したら私はまだぴっちぴちの20歳!


「ああっ、私を取り合わないで……マイク、ダニエルっ!」


「な、何をされてるのでしょう?」


 げげっ、変なところ見られちゃった。


 声のした方を見ると、怪訝そうにこちらの様子を伺うように女の人が立っていた。


 この子は最近来たばかりだから、かっこ悪いところを見せたくなかったのに……


「べ、別に何でもないから気にしないで……

 それより一体何の用?」


「あ、そうでした。

 今日は弟の面会日なので少し抜けてもいいですか?」


 ああ、そういえば前にそんなことを言ってたわね。


 確か弟さんが病気とか……弟?


「あなたの弟っていくつ?」


「今年で21歳です。

 私のふたつ年下で……」


 それはどうでもいいわ。


 ふむ、21歳か……私も21歳みたいなもんだし……アリね。


「おっけ。

 じゃあ私もついてってあげるわ!」


「え、弟は人見知りなので遠慮しま……あっ!」


 いいからいいから。


 早くいかないと救護院までの馬車に遅れちゃうわよ?





 ――


 こんこん、とノックの音が部屋に広がる。


 それは誰かが僕のもとを訪れたという合図。


 でも、救護院の人はさっき来たばかり。


 だからあの扉から入ってくるのはきっと、姉さ……


「やっふー!

 私ナタリアっていうの……よ?」


 姉さんじゃない? え、誰……。


「な、仲のいい人はね、ナタリーって呼んだりするの。

 あなただけ特別にそう呼ばせてあげちゃおっかな?」


 いや、あなたとは仲良くなった覚えはないので結構です。


 あと、仲のいい人が皆そう呼んでるなら僕だけが特別じゃないのでは……


「と、ところでー、君って年上って好き?」


 僕の話を聞いてくださいっ、ま、まあいいですけど……


 ええと、特別年上が好きっていうのはないですね。


「つまり嫌いじゃないっと……めもめも。

 あ、でも嫌よ嫌よも……っていうし、本当は好きっと……めもめも」


 勝手に人の好みを作らないでください!


「え、何でこんなに仲良くなってるの?」


 あ、姉さん!


 この人はいったい誰なんですか?


「私が働かせてもらっている、ナナナ牧場の方よ」


 あ、そうだったんですか?


 それは失礼いたしました。


 僕はリグレットと言います。


「ええ、知ってるわ。

 だって、あなたは今日から私の彼氏だもの!」


「あ、あの弟は病気で……あと、私は名前教えていませんよね?」


 見ての通り僕は病人です。


 僕なんかと一緒にいても、つまらないですよ?


「そりゃ、一緒にいる「だけ」なら相手が誰だってつまらないわよ!

 外に出たら面白いものがたっくさんあるから……ほらっ!」


 え、あ……急に引っ張るとどこが地面かわからなく……うわぁ!!


「やめてくださいっ!?

 お、弟は目が見えないんです!」


 だ、大丈夫ですよ姉さん。


 少し転んだくらいで大袈裟です……僕も、いちおう男なんですから。


「出てってくださいっ!!!」


「私っ、そんなつもりじゃ!?

 ……ごめんなさい、先に戻ってるわね」


 あ……音が遠くにいっちゃった。


 もう、姉さん?


 お世話になってる人にあんな言い方したらダメじゃないか。


 ちゃんとまた会ったら謝るんだよ?


「で、でもあなたに酷いことをするから……」


 僕の目のことを知らなかったからしょうがないでしょ?


 姉さんがちゃんと事前に伝えていたらどうなってたと思う?


「それは……わかったわリグレット」


 さすが僕の姉さん!


 そうやって素直にしていたらきっとこれからも大丈夫。


 僕がいつかいなくなったとしても……


「え、いま何か言ったリグレット?」


 ううん、それよりお仕事であったことを聞かせてよ。





 ――


 新人ちゃんまだ怒ってるかな?


 でも、私だって「あの約束」のせいで今まで行き遅れたんだし……むしろ私の方が謝ってほしいくらい、でも……


 あいつと結婚したら家族になるんですもの、どうせなら仲よくしたいなぁ。


「どうでもいいんじゃが、いつからこの国では見知らぬ相手と夫婦になれるようになったんじゃ?」


 あ、ローズ様やっときてくれたんですね。


 先日注文だけして取りに来ないから、お母さん怒ってましたよ?


「すまんのぅ、うっかりしておったんじゃ。

 ほれ、こいつをやるといい」


 え、これって……うそっ、「白薔薇の剣姫オリジナルアロマブレンド」のヘアオイル!?


 10本限定販売で、発売と同時に完売したっていう超プレミアものじゃないですかっ!?


 確かにこれならお母さんも機嫌を直すと思いますけど……てか、私も欲しい。


「同じのならまだあるぞ、ほれ」


 ふ、ふたつも!?


 これってリリアーナ様が直接お摘みになったお花の香りがついてて、中には家と交換にしてでも手に入れたがっている人がいるって聞きましたが……本当にいいんですか?


「一度やったものを返せというほど心が狭くないつもりじゃ。

 好きに使うといい」


 使うなんてとんでもない!


 これは大切にしまって……あ。


「それがいいじゃろうな」


 ローズ様……もしかしてみっつあったりは……しませんよね。


「もっとるが全部わしの分じゃ」


 ちぇー、まあ弟君もらっちゃうんだし……少し惜しいけど気前よくあげるわ!


「そういえば、最近変わった女の子と知り合ってのぅ。

 お主の独り言を聞かせてもらった礼に話してやろうか?」


 いえ、大丈夫です。


 あと、勝手に私の独り言を聞かないでください。


「冷たいやつじゃのう。

 聞いておいた方がよい気がするが……

 まあ、どうせこのあと会いに行くつもりじゃったし……よいか」


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