自慢させて:中編
「さぁ、どんどん食べてね。
もっともっと作るから!」
「んむんむ……とってもおいしい……お腹が破裂しちゃそう……」
か、母さんったらいったいどれだけ作るつもりなのよ。
あとユーリさん、ケーキ丸々ひとつはさすがに食べすぎなんじゃ……
あれから母さんに私の実家まで強制的に連れてこられた私たちは、依頼と仲間をほったらかしにして母さんお手製のケーキを食べていた。
生クリームたっぷりのスポンジの上に村で取れた果物が乗ってるだけの「素朴」なケーキ。
王都だったらチョコとかキャラメルとか飴細工とか……とにかく可愛くてお洒落な食べ物いっぱいで出来てるし、そっちの方が断然美味しいに決まってる!
……食べたことないけど。
でもなんでだろう。
いま目の前にあるこのケーキが、世界中のどんなケーキよりも「美味しい」って感じちゃう。
なんか悔しいな。
「ここにいたのかマルッテ。
俺たちは12匹倒したぞ!
お前らは何匹……って、何でケーキ食ってんの?」
「俺たちの分はないのか?
それと、ユーリの前にある皿の大きさ……まさかそれ全部食べたのか?」
あっ、忘れてた!
ルークとジルもこっちでケーキ食べてっ!
早くしないとユーリさんのお腹が破裂しちゃうのっ!
「よしっ、任せろ!
……っていってもケーキもうなくね?
あ、その食べかけいらないならくれよ!」
は? あげるわけないでしょ?
それにケーキならほら……きたわよ。
「あらあら、こんなにお客さんが来てくれるなんて久しぶりっ!
もっともっと沢山作らなきゃっ!!!」
か、母さん。まだつくる気なんだ……。
まさか私の仕送り、全部ケーキの材料に使ってたりする?
「で、でけえ……」
「ふむ、見た限りこのケーキに使われている生クリームの量は5キロを超えている。
これを残さず食べた場合、運がよかったら生きて帰れるはずだ」
それって運がよくなかったら死ぬってことなんじゃ……
っじゃなくて、ユーリさんもう食べちゃダメですよ? あれ、いない……
「あなた、かくれんぼ好きなの?」
「まあな。
お嬢さんも一緒にするか?」
「まあ素敵!」
お、お父さん…………さっ、皆どんどん食べましょっ!
私が切り分けてあげるわ……はい、どーぞ!
「さんきゅ!」
「ルークより俺の方が小さい」
そう? じゃあ私もう食べないからこれどーぞ。
「あ、お帰りなさいあなた!
マルッテがお友達を連れて帰って来てくれたの!」
別に、帰ってきたくて来たわけじゃ……あと、ルークは自分の分を食べて。
「そうか。
ゆっくりしていくといい」
何よ偉そうに……
ユーリさん、そんなのほっといて「ジルとルークのお腹にいったいどれだけの生クリームを詰められるか」競争しましょ!
「いたいのいたいのとんでけー!」
……え、突然どうしたんですか?
「んー、たぶん回復魔法だな。
お前ん時もあれしてたし」
「俺は初めて見る」
回復魔法、あれが……でもどうして?
「これは……
ユーリといったか、マルッテとはどんな関係だ?」
ちょっと、いきなりユーリさんに何するのよ!
その手を離して……いたっ、私の腕まで……!?
「マルッテこっちにこい!
ユーリ、俺たちについてきてくれ」
「かくれんぼはしないの?」
「……あとでな」
もう離してってばっ!
何なのよいきなりこんな所に……ひっ!
「この森に生息するごく一般的なゴブリンだ。
訓練用に捕まえていたものだが……こいつを今からお前がいる方に逃がす」
ど、どうしてそんなことっ!
それに訓練って何のこと……くっ!
「そら行ったぞ!」
な、舐めないでよね。
たかがゴブリン一匹くらいよゆ……余裕で……倒せっ……たおせる……きゃあ!!!
「思ったとおりだ」
え……いつの間にこっちに来たの?
というかその手に持ってるゴブリン……もしかしてお父さんが倒した……の?
「マルッテ、今すぐ冒険者をやめるんだ」
――
「どうしてあなたがこの村を守ってるってマルッテに言わないの?」
別にわざわざいう程の事でもないだろう。
幼い娘と愛しい妻が暮らす村だ、少しでも安全にしておかないとな。
「お帰りなさいあなた……そ、そのケガどうしたの!?」
なあに、少しどじっただけだ。
ほっといてもすぐ治る。
「どうしてまた怪我が増えてるの?」
木の実を取ろうとしたらまた……ドジってな。
なあにすぐに……ぐぅあぁぁ!!
「……あなたの腕のことについて、巡礼に来た神官様に相談したの。
神官様が言うにはあなたはゴブリンに呪われたみたい。
もう治らないだろうってお付きの救護院の方も……」
別に問題ない。
冒険者時代の蓄えはまだまだ残ってる。
家族二人を養うには充分だ。
村のやつらに稽古を付けてやるくらいのことはできるしな。
ただ、俺の腕のことはマルッテが大きくなっても言うなよ。
見た目には普通と変わらないし、あいつを怖がらせたくないんだ。
それに、大きくなった後、陰で村を守ってるって知ったら……ふふっ、楽しみだな。
え、マルッテが村を出て行った!?
一体どうしてそんなことに……
「全部あなたのせいでしょ!?
あなたが恰好つける為に、あの子が今までどんな気持ちで……!!!」
そんな、まさか村長の息子がマルッテにそんな酷いことを言ってたなんて……
「その子に謝りに来てもらって!
そしてすぐにマルッテを連れ戻さないとっ……あのこ今まで狩りにだって一人で行ったことないのに、このまま外の世界に出たらどんな目に合うか……!!」
それは無理だ。
村長の息子……「ロナウド」は、親せきの家に預けられることになったらしい。
村長である父親のことを持ち出して、村の若い女に手当たり次第に手を出したらしくてな……村からの追放処分を受けたらしい。
「そんなっ……ならマルッテは……」
いや、マルッテは大丈夫だ。
それに、あいつは冒険者になって帰ってくるって言ったんだろ?
俺がギルドマスターに話を通しておく。
魔物の討伐系の依頼は受けさせるなってな。
それよりあいつが帰ってくるまで村を守る方が大切だ。
俺はここを離れられない……が、お前は好きにしていいぞ。
冒険者になるならギルドへ行くはずだ、近くのギルドに行けばおそらくマルッテの行方を探れるだろう。
「あなた…………いいえ、私もここに残るわ。
あの子ね、ずいぶん前からケーキを食べても笑わなくなったの。
昔はあんなに大好きだったのに……
私、あのこが外で食べて来るどんなケーキより美味しいものを作るわ。
いつかあの子が帰ってきた時、絶対に笑顔にさせてみせる!」
……そうか。
なら俺は、お前とあいつの居場所を守る。村だけでなく、村の周囲も俺一人でも守り切って見せる。
実は私のお父さんすごかったんだ……って、笑顔になってもらう為にな。
「じゃあ、どっちが先にあの子を笑顔にするか競争ね?」
ああ、競争だ。
※お話が予定よりも長くなってしまったので、3分割になりました。
後編の投稿予定日は明日です。




