この身に余るもの:後編
さて、といったもののアテがあるわけでもなし。
その辺にゴロツキでもいればと思ったが、今日に限って見当たらない。
「もしかしてちょっと減らしすぎたかい?」
状況は悪いのになんだか嬉しくなってくる。
悪人がいない世こそ私が求めているものなんだから仕方ないといえばそうだが……
「とは言っても、まるっきり居ないとなると困っちまうね」
まずい、どうやら本当にこの町に悪人は居ないみたいだ。
いつの間にかここで暮らす人々の顔は、どれも善良さを感じさせるものばかり。
仕方ない、ここは私の寿命を使うとするか。
ひと月くらいなら問題ないだろう……
「助かった!
一生この恩は忘れねえ!」
結局あれからも悪人の姿を見つけられず、私自身の寿命を使うハメになった。
しかし、それもまたよし。
と、思ったのもつかの間……。
「頼む!
出産予定日が遅れてるんだ!」
そうかい、あと一か月だね?
「なんとかしてくれ!
赤ん坊の具合がどうも悪いんだ!」
男が慌てるんじゃないよ!
女房と一緒に、一年くらいじっくり様子を見てやるといいさ。
「一生のお願いだ!
母親の顔も知らないなんて可哀想だ!!」
……またかい?
それなら、あと五年だ。
これで最後にしとくれよ?
「これで最後だ!
最後の思い出づくりに家族で旅に……」
またかえ?
ほかにもいらいにんがたくさんいてね。
もうじゅみょうはのこってないよ……わかったよ。
あと、いったげつだへだからね?
――私の寿命はあっという間に尽きた。
藩主になった長五郎のやつがよほど優秀なのか、どこを歩いても悪人なんて影も形もない。
善人から寿命をとるわけにもいかないし、日ごとに依頼の数は増えていくし、塵も積もれば山とはこのことだ。
でもまあ、なんだかんだ悪くない人生だったと思う。
目指していた光景、悪人のいなくなった世界が私の目の前に広がっているんだから。
長五郎のおかげで私の理想が実現できた部分もあるのだろう。
最後に昔話の一つでもして、どこかでひっそりと……。
「ぐふふっ!
見ろよこの刀!
あの馬鹿女のおかげでこんないいい刀が手に入った!」
「おいよせよ!
長五郎の旦那に言われただろう?
外では善人、中では悪人」
「ああ、そうだった。
福は内、鬼は外ってな……あれ、これじゃ逆か?」
ゲラゲラと二人組の男たちが笑いあっている。
どういうことだ?
あいつは確か妹さんが病気で……あっちの男は年の離れた恋人が……
「よそから女を連れてきて、
あの馬鹿のとこに連れてくだけで十両だぜ?」
「だからやめとけって!
その馬鹿に聞かれたらシャレになんねえぞ?」
そうか……そういうことだったか。
よりにもよってこの技を……。
恋しい仲間たちへの弔いの為に天より授かったこの技を……!
よくも……よくも…………っ!
お前たちの醜い欲望を満たす為に使わせたな!!!
「このふらみはらひてくへる!」
「大丈夫大丈夫。
昨日見かけたけど、もう死ぬ寸前の婆だった……え?」
男から……いや、人でなしから命を奪った。
「ふぅ、少し戻ったか?
だがまだ足りん」
「や、やめてくれ……ぎゃぁ!!」
もう「一匹」からも命を奪う。
少しばかり貰いうけるのではなく、根こそぎ奪う。
もはや悪人どもに容赦はいらない。
こいつらを人と思ったのが間違いだった。
もはやこの身、悪鬼羅刹になり果てようともこの恨み晴らしてくれよう。
――
「しかし、本当にこれでよかったのだろうか?」
「何言ってんだい!
大体あんたから言い出したことだろう?」
「そうは言うが、あの老いぼれた姿を見るとな」
「いい気味さ!
自分が一番美しいって面して、忌々しいったらありゃしない!
あの女が醜く老いて、私は若く美しいまま!
こんなに面白い話が他にあるかい!」
「そ、そうだな……そうだな!
どうせ旅から帰るころにはもうくたばってるんだ!
もう忘れて……お七?」
おや、もうやめるのかい?
とっても面白い話だったのに……ねえ、お七さん?
ねえってば……聞いてるの?
ああ……死んでるの。
「も、紅葉!?
お、おまっ、お前なんてことしやがるんだ!
今すぐお七を元に戻せ!」
どうしたんだい、長五郎。
どうせ人でさえいつか死ぬんだ。
人でなしならいつ死んだって、誰も気にやしないだろう?
「お前……狂ったのか?
……っ悪かった!
もう二度とこんなことしないから俺たちを許してくれ!」
ああ、いいよ。
「そ、そうか……ぐぇ!!!」
許してあげるから、早く死んで。
「お、お七……愛し……て……」
人みたいなこと言ってる……おかしなもんだ。
さて、身体も元に戻ったし別の土地にでもいくとしよう。
「おかーさん、ご本読んで?」
まだいたかぁ!!! ……あっ。
違う、この子は「人間」だ。
ごめんよ、すぐに戻すから勘弁しておくれ……あ。
寿命が戻ら……ない?
私は今、いったい何をした?
人でなしを……違う、人を……そうだ、子供を……
――悪鬼羅刹になり果てても
ああ、そうか。
この世で一番の人でなしは、「我」だったのか。
――
あれからどのくらいの時間が経ったか知れないが、悪人から命を奪い続けることはやめられなかった。
やめた瞬間、何かが壊れそうだったから。
そうしているうちに命を宿しすぎたのか、それとも己の業が形を成したのか、よくわからないが我の身体はいつの間にか石になっていた。
石となっても我の美しさは変わらなかったらしく、見世物としてまだ生きている。
今では海を渡り、知らない国に運び込まれる程度に人気がでたらしい。
これはきっと我への罰。
一生、いや、永遠に見世物として生き続ける――
「まぁ、綺麗な女の人。
でもどうしてそんなに悲しそうなの?」
おお、我に話しかけてくる物好きは久しぶりだな。
見た目より幼い心じゃが、もしや…………ふむ、まだ育ちきってないだけか。
沢山食べてよく寝るといい。
「うふふ、とっても優しいのね?
じゃあ、一緒にご飯を食べに行きましょう」
は?
いや、聞こえてるわけが……そうだ、聞こえるわけがない。
我は一生このまま。
しかし……外の国で黒い髪とは、なにやら奇妙な縁を感じる。
もしいつか、天に上ることが許されたならば、お主に会いに行くのもいいかもしれんな?
まあ、罪深い我にそんなことが許されるわけ――
「いたいのいたいのとんでけー!」
――
私は今、世界中を旅している。
そして、親のいない子供たちを見つけては、あの方のもとへと送る。
あの女神のように清らかな女性の元へ。
ああ、もう泣かないの。
大丈夫、あなたを幸せにしてくれる人の所へ連れて行ってあげるから。
私の名前?
……そんなものないわ。
だって、人でなしに名前なんて「もったいない」もの。
次回は以前少しだけ登場した冒険者たちが再登場します。
いつも読んでくださってありがとうございます!




