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この身に余るもの:前編

 我は忍びの里の紅葉。


 その名の如く、赤き衣に身を包んだこの身体。


 まるで舞い散る木の葉のようにしなやかな曲線を描いたこの身体。


 まさに絵にも描けない美しさ。


 技など持たずとも、この身体さえあればこなせない依頼などない。


 たとえ失敗したとしても、そのことを聞きつけて雇い主が怒り狂ったとしても何の問題もない。


 夜が明ける頃には色に呆けた男がただ残るのみ。


 それなのに。


 我は凡夫では決してたどり着けない「境地」に至ってしまった。


 肉体が極上であれば技もまた極上。


 そのようなことがまかり通ってよいのかと言われれば、我は黙って肩をすくめるしかない。


 何故ならそれが我の「格」というものなのだから。


 しかしそれも今や、遠い遠い昔の話――


「ねえねえ、これ面白ーい!」


「何なのこれ!?

 裸の「石像」に服を着せるなんて……はれんちっ!」


「これって、持ってってもいいの?」


 今日からここが我が家か。


 どこに行っても変わらんな。


 好奇心を持って我を見る童。


 羞恥や嫉妬に身を焦がす女たち。


 肉欲にまみれた男ども。


 一体なんでこんなことになったのだったか……。





 ――


「そういえば紅葉、「不老不死の妙薬」って知ってるかい?」


 通いなれた店に赴き、一人でそばをすすっていると見知った男が声をかけてきた。


 噂大好き長五郎。


 古今東西あらゆることに精通しているという点だけを見れば、それはもう立派なものだが……それらは全て、女を口説くことに使われているらしい。


 何とももったいない男だ。


「そんなものありゃしないよ」


 私がそういうと、男はなぜか待ってましたとばかりに顔を寄せてきた。


 よせ、お主のような男に身を寄せられると怖気が走る。


「こいつは何だと思う?」


 長五郎が懐から何やら取り出した。


 これは……小さな壺?


 しかし透明な壺など初めて見た。


「驚いたかい?

 こいつは西から渡ってきた「ガラス」で出来てるんだ!

 しかも中身は……何だと思う?」


 ……呆れたものだ、何も知らぬ小娘でもあるまいに。


 そんな奇天烈なものに心奪われる私ではない。


「馳走になった。

 また来る」


 私は食べた分の勘定を店主に見えるところに置いて店を出た。


 後ろを振り返ると、「がらすびん」なるものを他の女に見せびらかす長五郎の姿が見えた。


 まったく男というのは……っと、すまんな。怪我はないか?


「あるに決まってんだろう!

 俺を誰だと……いい女じゃねえか、ちょっとこっち来い」


 ……はぁ。


 こういう輩はいったいどこで増えるのだろうか。


 依頼の為に捕らえた悪人はとうに百を超える。


 それなのに全く減った気にならん。


 あの男に比べたら幾分マシな顔をしてるんじゃから、素直に生きればもっと幸せになれるだろうに。


 どいつもこいつも「もったいない」


 ちゃんと生きる気がないなら、その命。

 

 少しばかりもらっていくぞ?


「おいっ待てっ、どこに行くんじゃ!

 ……へ?

 おへ、いったいどうなっふぇ」


「ごめんなさいね、お爺ちゃんたち。

 私いま急いでいるから!」


 するりともう一人の男の身からも「命」を抜き取り、無害な女を装いつつその場を離れる。


 ひぃ、ふぅ、みぃ……、どうやら七十年分くらいはあるか。


 私の仕事は「寿命売り」


 人を殺すことしか考えていなかった里の連中に見切りをつけて、人に害をなす悪人からもらい受けた寿命を、善良な依頼人に渡す仕事を始めた。


 こうすることで悪人が早死にし、善人が長生きする。


 次第に世の中はよくなっていくはず。


 もう戦など二度と起こしてはならんのだ。


 あんなもの人の所業ではない。


 戦をなくすためなら私は「何でも」する。


 それが私なりの弔いだ。


 悔い改め、善人になったらまた会いにくる。


 それまで達者でな。





 ――


 季節がいくつか巡ったころ、久しぶりに馴染みの店を訪れた私。


 いつものように蕎麦をすすっていると、またいつかの男が来た。


 噂大好き……いや、今は藩主さまだったか?


 一体どんな手を使ったのやら。


 おそらく元藩主の一人娘を上手く誑かしたといったとこ……


「紅葉探したぞ?

 あれ、お前が持ってるんだってな?」


 ふぅ、お目当てはどうやら私の様だ。


「いったい何の話だい?

 お前さんが欲しがるようなものなんて持ってやしないよ」


「とぼけるな。

 お前が「寿命売り」なんだろう?

 バラされたくなかったら、俺の言うことを聞け」


 ……なるほど、お主も「そっち側」であったか。


 ちょうど切らしていたところだったから助かるが……どうにも客足が多すぎる。


 今日のところは見逃してやろう。


「だから何の話かわかりゃしないよ!」


 私はそう言いながら勘定をその場に置いて立ち上がる。


「頼む、俺の女房が危篤なんだ!」


 む?


「お前は知らないかもしれないが、俺は今この藩を預かっているんだ」


 知ってる。


「あのガラス瓶覚えてるか?

 藩主の一人娘があれをいたく気に入ってな」


 お主……あんな妙なもので釣ったのか。


 少し思っていたのと話が逸れてきた。


 そういうことなら……。


 いや、今は手持ちの分を切らしていたんだった。


「俺にはあいつしかいねえんだ!

 頼む、この通りだ!」


 大の男が惚れた女の為に頭を土に付けるとは……情けない。


 しかし……善良だ。


 なら私のすべきことは一つ。


「時間はどれくらい必要なのさ?」


「も、紅葉やっぱりお前が……!?

 ひ、ひと月!

 ひと月あれば赤ん坊が生まれるんだ!

 どうかそれまで……!!!」


 まあ、そのくらいであれば間に合うだろう。


 今夜、屋敷の前で待ってな。


 女房は寝かせたままでいいからね。


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